拗ねたような懐かしむような呟きに、視線を右隣に戻す。けれど、泉くんは謀ったようなタイミングで立ち上がり自販機の前で背を向ける。
おかげで、どんな顔をしているのかはちっともわからない。
「人の触れてほしくない部分、だけど本当は誰かに触れてほしくて堪らなかった部分をいとも簡単に包み込んでみせる。マジでズルい」
具体的な回想を伴う響きに、私はポツンと置き去りにされる。
過去の私、泉くんに何したの…。
「いいよ、俺のことはわかんなくて」
向日葵のような豪快さの中にひと匙混ざったアンニュイなアクセントは、機械の稼働音にかき消される。
「だからありがとうな。素直に、灯のそのままを見てくれて」
突然飛び出したその名前に、頬が引き攣る。
もごもごと口内で言葉を捏ねるばかりの私に、泉くんは「やっぱり灯関連か…」と息を吐いたかと思えば、いきなり私のおでこ目がけて手を伸ばす。
何の前触れもない挙動にビクッと目を閉じる。と、同時に前髪を上から冷気が抑え込む。
「葛藤の末に濾過された素直さで救われる奴がいる。あとは自分に素直になれば、全部上手くいくんじゃね?」
爛漫とした励ましと共に、額に当てられたのは買いたてのいちごミルクだった。
「これ…」
「やるよ。それ好きだろ?コーヒー苦手なくせに一丁前に無糖なんて買っちゃって。ドジだな」
「ありがとう。流石学年トップクラスの秀才、暗記力抜群だ」
「別に関係ねーよ。興味あること以外はすぐ忘れるし」
そう呟いてペットボトルの底で私の額をグリグリ擦ると、後ろに隠していたコーヒーを拾い上げる。
軽やかにプルタブを引き、「ぬる。苦」と歪められた口元は何故か満足そうでさえあった。
変わらぬ泰然自若さに元気をもらいかけるけれど、頭にこびりついた宮美さんの痛烈な眼差しが訴えかける。
自分の気持ちに正直になったとして、私が目障りになる事実は変わらない。
そもそも、私の本当の想いって何だろう。
何者でもない私が樹々瀬くんの側にいる意味って何だろう。
「…さてはまた人のこと考えてるな?俺の力説聞いてた?良い加減本格的に病むぞ」
半分茶化し半分本気で怒る泉くんに真正面からデコピンを喰らう。そろそろ額に風穴が空くんですけど、と涙目で泉くんを見上げ、気付く。
今までのどの瞬間よりも純度の高い切実さが私を捕えていた。
「意地悪してやろうとかあいつを貶めてやろうとか。そういう邪悪な成分の一切ない、真っ直ぐな好意や信頼が人を傷付けることだってあるからさ。他人を思考の主語に置きすぎると、自分の”好き”が迷子になる。…もっと適当に生きれればいいのにな」
その言葉はまるで、私に、というより自分自身に言い聞かせているみたいだった。
だからこれ以上追及するのも忍びなくて。ゆっくりとした時の流れだけが私たち二人を見守り、過ぎ去っていく。
おかげで、どんな顔をしているのかはちっともわからない。
「人の触れてほしくない部分、だけど本当は誰かに触れてほしくて堪らなかった部分をいとも簡単に包み込んでみせる。マジでズルい」
具体的な回想を伴う響きに、私はポツンと置き去りにされる。
過去の私、泉くんに何したの…。
「いいよ、俺のことはわかんなくて」
向日葵のような豪快さの中にひと匙混ざったアンニュイなアクセントは、機械の稼働音にかき消される。
「だからありがとうな。素直に、灯のそのままを見てくれて」
突然飛び出したその名前に、頬が引き攣る。
もごもごと口内で言葉を捏ねるばかりの私に、泉くんは「やっぱり灯関連か…」と息を吐いたかと思えば、いきなり私のおでこ目がけて手を伸ばす。
何の前触れもない挙動にビクッと目を閉じる。と、同時に前髪を上から冷気が抑え込む。
「葛藤の末に濾過された素直さで救われる奴がいる。あとは自分に素直になれば、全部上手くいくんじゃね?」
爛漫とした励ましと共に、額に当てられたのは買いたてのいちごミルクだった。
「これ…」
「やるよ。それ好きだろ?コーヒー苦手なくせに一丁前に無糖なんて買っちゃって。ドジだな」
「ありがとう。流石学年トップクラスの秀才、暗記力抜群だ」
「別に関係ねーよ。興味あること以外はすぐ忘れるし」
そう呟いてペットボトルの底で私の額をグリグリ擦ると、後ろに隠していたコーヒーを拾い上げる。
軽やかにプルタブを引き、「ぬる。苦」と歪められた口元は何故か満足そうでさえあった。
変わらぬ泰然自若さに元気をもらいかけるけれど、頭にこびりついた宮美さんの痛烈な眼差しが訴えかける。
自分の気持ちに正直になったとして、私が目障りになる事実は変わらない。
そもそも、私の本当の想いって何だろう。
何者でもない私が樹々瀬くんの側にいる意味って何だろう。
「…さてはまた人のこと考えてるな?俺の力説聞いてた?良い加減本格的に病むぞ」
半分茶化し半分本気で怒る泉くんに真正面からデコピンを喰らう。そろそろ額に風穴が空くんですけど、と涙目で泉くんを見上げ、気付く。
今までのどの瞬間よりも純度の高い切実さが私を捕えていた。
「意地悪してやろうとかあいつを貶めてやろうとか。そういう邪悪な成分の一切ない、真っ直ぐな好意や信頼が人を傷付けることだってあるからさ。他人を思考の主語に置きすぎると、自分の”好き”が迷子になる。…もっと適当に生きれればいいのにな」
その言葉はまるで、私に、というより自分自身に言い聞かせているみたいだった。
だからこれ以上追及するのも忍びなくて。ゆっくりとした時の流れだけが私たち二人を見守り、過ぎ去っていく。



