満天の君と、純白のヒメゴトを。

「ま、この際あなたの弁明が真実か言い訳かなんてどうでもいいの。水掛け論になるだけよね。それに…言うべきことは決まってるもの」

薫風に揺れるイヤリングがしゃらん、と鳴ると同時に強かな眼光が私の胸を貫く。

「特別な関わりが皆無ならなおさら。樹々瀬くんと距離を置いて下さい」
「え…」
「言ったでしょう。本気で彼のことが好き。なのに、希薄な関係性の横槍にわたしの恋路が阻まれるだなんて、一番有ってはならないこと。あなたの存在は迷惑でしかないの」
「待って!恋とか好きとかそういうのじゃない。誤解を招いたのならごめんなさ」
「例えそうだとしてもっ…お願い。彼の側から立ち去って」

精一杯押し殺した切実な叫び。

強かさの奥に潜んでいた本音が花弁が舞い散るようにゆっくり姿を現す。

「樹々瀬くんはいつも、静かで冷ややかで…あんなに優しい顔、初めて知った」

ハッと吸い込んだ空気が、尖った棘を心の奥底までグサリと押し込む。

…あぁ、わかった。気付いてしまった。

ずっと息苦しかった理由。樹々瀬くんの笑顔に触れる度、温かい眼差しに晒される度、この胸が痛む理由。

極めて単純なことだった。

私なんかが彼と親密にすることは、決して許されないから。

「あなたは知ってる?話しかけるのはいつも自分から、返ってくるのは当たり障りのないものばかりなもどかしさを。
誰よりも彼のことを想っているのに、その他大勢から抜け出せない虚しさを。
必死に自分磨きをして可愛くなっても変わらずみんなのアイドルで居続ける彼と向き合う孤独さを。
女子の誰にも連絡先すら教えない、頑ななガードを崩そうと奮闘する苦々しさを。
それでも好きで好きで堪らないこの気持ちを…あなたは知らないんでしょう?」

連絡先…女子の誰にも教えない?

携帯を握りしめたままの右手が急に重くなる。

私はなんて卑怯なんだろう。

私が樹々瀬くんと仲良くすることで傷つく人がいることを、心のどこかで薄々認識していた。それなのに、気付きたくないと願った。

樹々瀬くんと一緒に過ごす時間が、何気ないやり取りが、いつの間にか大切なものになっていたから。

けれど、その感情全てが私のエゴで。

彼を一途に思い続ける人たちがどれだけ一生懸命に願っても手に入れられないものを、誰かを好きにすらなれない、何も頑張っていない私なんかが味わっていいわけがない。

「ごめんなさい…」

頭を下げるばかりの私の前から、宮美さんは後味が悪そうに去っていく。