満天の君と、純白のヒメゴトを。

予想外の返答に首を傾げる私に、宮美さんは堂々と胸を張る。

「樹々瀬くんって、学校で一番モテるでしょう。となると必然的に好意の熱量に差が出るの。にわかファンからガチ恋まで、想いのベクトルはそれこそ本物のアイドルみたいに多種多様」
「なるほど」
「でも今あなたが圧倒されたのは、わたしの想いが特別だって初対面でも伝わったからでしょう。だから嬉しいの」

新鮮な朝の空気が、宝石のような彼女をそっと大事そうに包み込む。

「わたし、本気で恋してるもん。自分の全部で恋してるんだから」

瞬間、不思議と息が浅くなる。心許ない胸元をぎゅっと握る私の頭上で予鈴が鳴り響く。

またね、と手を振る彼女が居なくなった教室は、水を打ったような静けさに包まれる。

まるで花吹雪のようだった。

淑やかなだけじゃなく芯が一本通っていて。だけど嫌味な感じがしなかったのは、彼女の言葉に何一つ誇張がないとわかるから。

やっぱり、羨望も嫉妬も湧いてこない。湧いてくるのは情けなさばかり。

…可愛かったなあ。

感嘆と呆気の混ざった吐息が人知れず虚空を彷徨う。机上で瞬く暗緑色の鉱石と目が合ったような気がして、私はそっと瞼を閉じる。

視覚が遮断されたことで主張を増すのは、胸を刺す不可解な苦しさ。日頃抱えている劣等感とはまた別の形の歪み。

樹々瀬くんの存在が身近になってから初めて芽生えた感情が、段々とその輪郭を露わにしかけているのがわかった。

…お願い。

「まだ気付きたくないの…」

僅かに溢れた呟きは、誰に見つかることもなく、ざわめきに吸い込まれる。