満天の君と、純白のヒメゴトを。

身の程なんて考える余裕のなかったあの時は、本当にただそれだけで頭がいっぱいだったんだと、思う。

確証が持てないのは、普段の行動力ならありえない言動の連続だったから。
いや、正確には“久しぶり”だったからかもしれない。

「私なんて」という劣等感が言動に先行しないのは。

「…そっか。今、俺は笑えてる?」
「うん。眩しいぐらいに素敵な笑顔」
「それは、今目の前に居るのがひとみちゃんだからだよ」

完全に油断していたところに喰らった不意打ちに再度急所を突かれ動けない。そんな私に追い打ちをかけるように、樹々瀬くんは身を乗り出す。

「やっぱりひとみちゃんは可愛いね」

…疑惑が確信に変わった。

あれだ。この人あれだ。俗に言う無自覚イケメンだ。その上天然も混ざってるんだ。

じゃないと「可愛い」だなんて、いくらお世辞でも私に言えるわけがない。

本人の意向とは大幅に逸れるだろうけど、本当の自分を隠して生きてきた選択はある意味間違っていなかったのかもしれない。

こんな天然思わせぶりを全方向に振りまこうもんなら、国が傾く。何ならこの世から女子が全滅する。

虚無を通り越して妙に思考が冴えわたる。その傍ら、樹々瀬くんは爛々と声を弾ませる。

「俺、もっとひとみちゃんのことを知りたい!ひとみちゃんが俺の素を知ってくれたみたいに」
「そんな…私かなりつまらない女だよ?」
「一緒に居られたら、それで幸せだよ。もしよかったらこれからも…時々でいいから、俺と同じ時間を過ごしてほしい」

訳:また生徒会室でお話ししましょうということでいいんだよね、多分。

独特な感性に順応してきたのもあるけれど、歯が浮くようなその申し出を拒むという選択肢が生じなかったのは、きっと樹々瀬くんが作る穏やかな空気を少なからず気に入ってしまったから。

もちろん可愛いという言葉を真に受けたわけではない。それでも…ほんの少し、誰かにとっての何かになれたような感覚が新鮮だった。

けれど今なら言える。

本当なら、この時点で無理矢理にでも目を覚ますべきだったんだ。夢物語と紛うほどに澄んだ、この現実から。