第二話 私なんか
それから私たちは二、三日に一度の割合で顔を合わすようになった。生徒会室の一角での雑談。話題は主に何気ない世間話。
授業のこと、週末の予定、愛読書、幼少期の思い出…本来なら絶対に知るはずもなかったこと、話しようもなかったことが二人の間に降り積もる。
中でも一番驚いたのは、彼の恋愛遍歴。
あれだけ人気なのだから恋人が居ても何らおかしくないのに、まさかの交際経験ゼロという意外な事実が発覚。
「彼女居たことすらないんだ」と淡々と告げるものだから、「何で!?」と喰いついたら「今はまだ内緒」と不敵な笑みで返された。
よくわかんないけど何かズルい。
あと、幼馴染の泉くんの話題になると四割増しで生き生きする。
いたずらっ子な笑顔に心底楽しそうな笑顔。色んな感情で笑顔を操る面白い人。
清らかで真っ直ぐなのに、雲のように掴みきれない人。
本当なら、手の届かない場所で生きる人。だけどこの瞬間だけは、手の届く距離で名前を呼んでくれる人。
“ただのイケメン”だった彼が、少しずつ別の関係値に変化していきそうな予感がむず痒くもあり快くもあった。
むず痒いのは初めて体験する感覚のせい。快いのは何故なのか、自分でもピンとこない。
でも、その感情の正体には気付きたくなかった。
というより気付いてはいけない、そんな直感が働いていた。
得も言われぬ曇りを伴ったまま、日はめくるめく過ぎていく。
ある朝、珍しく余裕をもって登校した私は、始業直前の教室で地学のプリントと睨み合う。
三日後に迫る提出期限を失念していた己を恨みつつ必死でペンを動かしていると、教科書に掲載されている暗緑色の石ーー輝石が視界の端に映り込む。
…樹々瀬くんの瞳みたいに、綺麗な色。
そんな思考を見抜いたのか、机上の携帯が微弱に震え出す。着信を確認すると、樹々瀬くんからのメッセージが表示されていた。
『おはよう。今日も放課後生徒会室にいます。もしよかったら来てください』
生徒会室に通うようになって数回目の日に、樹々瀬くんからのお誘いで交換した連絡先。
文化委員として連絡手段に便利だな、と二つ返事で了承してしまったけれど、己のスマホに樹々瀬くんの名前が表示されるという現象に未だに奇妙さを感じる。
それから私たちは二、三日に一度の割合で顔を合わすようになった。生徒会室の一角での雑談。話題は主に何気ない世間話。
授業のこと、週末の予定、愛読書、幼少期の思い出…本来なら絶対に知るはずもなかったこと、話しようもなかったことが二人の間に降り積もる。
中でも一番驚いたのは、彼の恋愛遍歴。
あれだけ人気なのだから恋人が居ても何らおかしくないのに、まさかの交際経験ゼロという意外な事実が発覚。
「彼女居たことすらないんだ」と淡々と告げるものだから、「何で!?」と喰いついたら「今はまだ内緒」と不敵な笑みで返された。
よくわかんないけど何かズルい。
あと、幼馴染の泉くんの話題になると四割増しで生き生きする。
いたずらっ子な笑顔に心底楽しそうな笑顔。色んな感情で笑顔を操る面白い人。
清らかで真っ直ぐなのに、雲のように掴みきれない人。
本当なら、手の届かない場所で生きる人。だけどこの瞬間だけは、手の届く距離で名前を呼んでくれる人。
“ただのイケメン”だった彼が、少しずつ別の関係値に変化していきそうな予感がむず痒くもあり快くもあった。
むず痒いのは初めて体験する感覚のせい。快いのは何故なのか、自分でもピンとこない。
でも、その感情の正体には気付きたくなかった。
というより気付いてはいけない、そんな直感が働いていた。
得も言われぬ曇りを伴ったまま、日はめくるめく過ぎていく。
ある朝、珍しく余裕をもって登校した私は、始業直前の教室で地学のプリントと睨み合う。
三日後に迫る提出期限を失念していた己を恨みつつ必死でペンを動かしていると、教科書に掲載されている暗緑色の石ーー輝石が視界の端に映り込む。
…樹々瀬くんの瞳みたいに、綺麗な色。
そんな思考を見抜いたのか、机上の携帯が微弱に震え出す。着信を確認すると、樹々瀬くんからのメッセージが表示されていた。
『おはよう。今日も放課後生徒会室にいます。もしよかったら来てください』
生徒会室に通うようになって数回目の日に、樹々瀬くんからのお誘いで交換した連絡先。
文化委員として連絡手段に便利だな、と二つ返事で了承してしまったけれど、己のスマホに樹々瀬くんの名前が表示されるという現象に未だに奇妙さを感じる。



