線の細い体にふんわりとした巻き髪、大きな瞳に小さな顔。
着せ替え人形の等身を拡大したかのような完成された美貌。…そう、彼女こそが噂の宮美瑠奈さん。
その人気は凄まじく、端的に言えば女子版・樹々瀬くん。お嬢様感漂う佇まいと甘美な雰囲気に魅せられる男子のなんと多いことか。
そんな彼女は今も大勢の友達に囲まれている…と思いきや、4限目終了の合図とともに、それまでのお淑やかな態度は急変、一目散にこちらに向かってくる。
何だ何だ、とどよめきが起こる中、友人数人がその背中を追う。
「瑠奈ちゃんどうしたの?急に走り出して…」
「待ってよぉ」
「ごめんね。でも私の勘が正しければあと六秒後に来るはずなの」
「来る?誰が?」
困惑する友達を余所に、宮美さんは柱に身を隠す。間近で見ても、体育後とは思えない清廉っぷり。
「誰って、毎週この時間にここを通って図書室に行く…」
そこまで言った時、不意に人影が宮美さんの元に現れる。
「樹々瀬くんっっっ」
目の前にやって来た樹々瀬くんに、はわわっ!と目が醒める勢いで飛び付くと、矢継ぎ早に言葉を発する。
「今日も格好いいよ!世界一!宇宙一!銀河一!」「何の本読んでるの?今度私も読みたいなあ」「もうすぐテスト期間だね。もしよかったら一緒に勉強、は無理だよねぇ」「そういえば文化祭の提出書類なんだけど…」
一目瞭然、恋する乙女の横顔に、教室中の男子が落胆の声を上げる。
「宮美さん、マジで可愛くて優しくて謙虚なのに。好きなのに…」
「ライバルが樹々瀬じゃな」
「何でよりにもよって樹々瀬なんだよぉ!」
「まだ片想いって噂だからワンチャン…」
「あるわけないだろ。クレオパトラもびっくりの美少女に言い寄られたら誰でも落ちる」
「じゃあほぼ両想い確定だろっ」
「しょうがねーよ。樹々瀬嫌いな奴は人間じゃない」
「可愛い可愛い」と騒いでいたのが幻かのように撃沈する男子達のことは意にも介さず、宮美さんは嬉々として樹々瀬くんだけを見つめている。
照れたように赤らめる頬、時折見せる上目遣い、何より洗練された立ち居振る舞い。
そのすべてがただ一人のためのもの。
…なるほど。これは可愛い。
彼らには申し訳ないけれど、恋する彼女は圧倒的で絶対的なヒロインだった。
遠目でも惹きつけられる存在感、美麗な容姿、愛らしい挙動…まさに私が憧れた”お姫様”そのもの。
人というものは、自分とあまりにもかけ離れた人物に対しては嫉妬なんてできないみたい。
羨ましいというより惨めになる。
絵になる二人に背を向け、私はすっと教室から姿を消す。
宮美さんが生まれながらのお姫様なら、私はただの庶民。舞踏会に行くドレスもなければ、理不尽な嫉妬を買って呪いの林檎を食むこともない。
運命づけられた甘い恋なんて言語道断。
かつて夢中になったおとぎ話も、恋愛漫画やドラマでだって、描かれる大半がヒロインの恋路。
その世界にだって、私みたいな「その他大勢」に分類される人もいて。けれどヒーローが見初めるのはただ1人。逆に言えば、ヒロインはヒーローに絶対見つけてもらえる。
じゃあ一体、誰が私のことを見つけてくれるんだろう。舞台に上がれない、何者でもない私のことを。
…そもそも見つけてもらおうだなんて思考が甘いか。
己の発想の稚拙さに苦笑しつつ教材一式を収納していると、机の中から見慣れない紙が一枚舞い落ちる。
舞踏会の招待状の如く丁寧な折り目を開くと、中から美麗な書体が現れる。
『放課後生徒会室に来て下さい。話したいことがあります。樹々瀬』
いつの間に…もしや急用?
文化祭の運営関係か、昨日の一件で物申したいことがあるのか。
何はともあれ、この機密文書は守り抜かなければ!
着せ替え人形の等身を拡大したかのような完成された美貌。…そう、彼女こそが噂の宮美瑠奈さん。
その人気は凄まじく、端的に言えば女子版・樹々瀬くん。お嬢様感漂う佇まいと甘美な雰囲気に魅せられる男子のなんと多いことか。
そんな彼女は今も大勢の友達に囲まれている…と思いきや、4限目終了の合図とともに、それまでのお淑やかな態度は急変、一目散にこちらに向かってくる。
何だ何だ、とどよめきが起こる中、友人数人がその背中を追う。
「瑠奈ちゃんどうしたの?急に走り出して…」
「待ってよぉ」
「ごめんね。でも私の勘が正しければあと六秒後に来るはずなの」
「来る?誰が?」
困惑する友達を余所に、宮美さんは柱に身を隠す。間近で見ても、体育後とは思えない清廉っぷり。
「誰って、毎週この時間にここを通って図書室に行く…」
そこまで言った時、不意に人影が宮美さんの元に現れる。
「樹々瀬くんっっっ」
目の前にやって来た樹々瀬くんに、はわわっ!と目が醒める勢いで飛び付くと、矢継ぎ早に言葉を発する。
「今日も格好いいよ!世界一!宇宙一!銀河一!」「何の本読んでるの?今度私も読みたいなあ」「もうすぐテスト期間だね。もしよかったら一緒に勉強、は無理だよねぇ」「そういえば文化祭の提出書類なんだけど…」
一目瞭然、恋する乙女の横顔に、教室中の男子が落胆の声を上げる。
「宮美さん、マジで可愛くて優しくて謙虚なのに。好きなのに…」
「ライバルが樹々瀬じゃな」
「何でよりにもよって樹々瀬なんだよぉ!」
「まだ片想いって噂だからワンチャン…」
「あるわけないだろ。クレオパトラもびっくりの美少女に言い寄られたら誰でも落ちる」
「じゃあほぼ両想い確定だろっ」
「しょうがねーよ。樹々瀬嫌いな奴は人間じゃない」
「可愛い可愛い」と騒いでいたのが幻かのように撃沈する男子達のことは意にも介さず、宮美さんは嬉々として樹々瀬くんだけを見つめている。
照れたように赤らめる頬、時折見せる上目遣い、何より洗練された立ち居振る舞い。
そのすべてがただ一人のためのもの。
…なるほど。これは可愛い。
彼らには申し訳ないけれど、恋する彼女は圧倒的で絶対的なヒロインだった。
遠目でも惹きつけられる存在感、美麗な容姿、愛らしい挙動…まさに私が憧れた”お姫様”そのもの。
人というものは、自分とあまりにもかけ離れた人物に対しては嫉妬なんてできないみたい。
羨ましいというより惨めになる。
絵になる二人に背を向け、私はすっと教室から姿を消す。
宮美さんが生まれながらのお姫様なら、私はただの庶民。舞踏会に行くドレスもなければ、理不尽な嫉妬を買って呪いの林檎を食むこともない。
運命づけられた甘い恋なんて言語道断。
かつて夢中になったおとぎ話も、恋愛漫画やドラマでだって、描かれる大半がヒロインの恋路。
その世界にだって、私みたいな「その他大勢」に分類される人もいて。けれどヒーローが見初めるのはただ1人。逆に言えば、ヒロインはヒーローに絶対見つけてもらえる。
じゃあ一体、誰が私のことを見つけてくれるんだろう。舞台に上がれない、何者でもない私のことを。
…そもそも見つけてもらおうだなんて思考が甘いか。
己の発想の稚拙さに苦笑しつつ教材一式を収納していると、机の中から見慣れない紙が一枚舞い落ちる。
舞踏会の招待状の如く丁寧な折り目を開くと、中から美麗な書体が現れる。
『放課後生徒会室に来て下さい。話したいことがあります。樹々瀬』
いつの間に…もしや急用?
文化祭の運営関係か、昨日の一件で物申したいことがあるのか。
何はともあれ、この機密文書は守り抜かなければ!



