ただのコンクリートがさながらレッドカーペットに変身を遂げる中凛然と歩くのは…樹々瀬くん以外考えられない。
静謐な顔付きで、歓声なんて気にも留めていないように闊歩する。
甘い蜜のような視線を一身に浴びる樹々瀬くんはまさに完璧なアイドル。
人垣に埋もれかけ、私も例の如く立ち尽くす。
「朝っぱらから結構なことで」
目の前の光景に微塵も関心のない桃は踵を翻し生徒の波をかき分けていく。今の精神状態で彼と対面しようもんなら卒倒確定の私も、慌てて一歩前に踏み出す。
その瞬間、雨上がりの青空のような澄んだ香りが鼻をくすぐる。
「おはよう、ひとみちゃん」
誰にも気付かれないよう、そっと届けられた囁き。何が起こったかを理解したときにはもう、樹々瀬くんの姿は人混みに呑まれて消えてしまっていた。
当惑や混迷といった感情が一切巻き起こらなかったわけではない。けれど、それよりも…
昨夜見た彼の笑顔が脳裏に浮かび上がる。真っ直ぐで、溌剌としていて…今の声だって楽し気に弾んでいた。
あんなに悲しく震えていたのが嘘のよう。そう思う自分の頬が仄かに緩んでいることに気付く。
世界にまだ、昨日が存在してくれていてよかった。
もう見えない背中に、心の中でひっそり「おはよう、樹々瀬くん」と返す。
少しだけ、何か素敵なことが始まる気がした。
静謐な顔付きで、歓声なんて気にも留めていないように闊歩する。
甘い蜜のような視線を一身に浴びる樹々瀬くんはまさに完璧なアイドル。
人垣に埋もれかけ、私も例の如く立ち尽くす。
「朝っぱらから結構なことで」
目の前の光景に微塵も関心のない桃は踵を翻し生徒の波をかき分けていく。今の精神状態で彼と対面しようもんなら卒倒確定の私も、慌てて一歩前に踏み出す。
その瞬間、雨上がりの青空のような澄んだ香りが鼻をくすぐる。
「おはよう、ひとみちゃん」
誰にも気付かれないよう、そっと届けられた囁き。何が起こったかを理解したときにはもう、樹々瀬くんの姿は人混みに呑まれて消えてしまっていた。
当惑や混迷といった感情が一切巻き起こらなかったわけではない。けれど、それよりも…
昨夜見た彼の笑顔が脳裏に浮かび上がる。真っ直ぐで、溌剌としていて…今の声だって楽し気に弾んでいた。
あんなに悲しく震えていたのが嘘のよう。そう思う自分の頬が仄かに緩んでいることに気付く。
世界にまだ、昨日が存在してくれていてよかった。
もう見えない背中に、心の中でひっそり「おはよう、樹々瀬くん」と返す。
少しだけ、何か素敵なことが始まる気がした。



