「どうして…」
「?」
「どうして演じるんですか。そんなに…辛そうなのに」
刹那、瞳の中に閉じ込められた光が大きく歪む。きっと無自覚に、けれど確かにその艶めきに影が差す。
震える唇を隠すように、樹々瀬くんはゆっくりと立ち上がる。皺一つないシャツが指をすり抜けて行く。舗装済みの道路に伸びる細やかな階段を上るその背は、気高さが染みついているのかこんな時でもシャンと伸びている。
仄かに口を開くとともに、風を纏い夜の街に揺らぐ輪郭が振り返る。
「だって、俺は…”完璧”を演じることで、初めて誰かに必要とされるから」
積年の想いが端々に滲む、空虚で深い呟きに、寂し気に細められた瞳が重なる。今までで一番、弱々しい光だった。泣きたくなるほどに切ない視線が、私の口から言葉を連れ去る。
「昔から、何でもそつなくこなすと周囲に勘違いされやすい自覚はあったんです。太陽曰く、風貌が出来る人のそれでしかない、らしくて。なのに蓋を開けてみたら全てが中途半端。第一印象と実際の乖離が凄まじいせいで『期待外れ』『がっかり』『正直幼すぎて呆れた』だなんて陰で囁かれていたのを知ったのは中学2年生の時でした。他にも色々重なって…何もしていないのに人が離れていく。いや、俺が何もできないから人が離れていくんだ…そう気付きました」
途絶えることなく車が往来しているはずなのに、いやに空気が静かだった。雑音が漏れなく溶けた小川のせせらぎに、冷たい心の内が運ばれていく。
「次の日から少しずつ振舞を変えました。大人しく、品が良いと思われるのを目指して。勉強も頑張りました。着々と順位を上げて一位を取れるまで必死に喰らいつきました。信頼も実績も全てを味方につけられるように、誰にでも好かれる太陽にも力を貸してもらって。すると少しずつ、やっぱり印象通りの完璧優等生なんだね、と評価が刷新されていって…。そうしたら、否が応でも感じました。あぁ必要にされるってこういうことなんだ。今自分は愛されてる、って」
「?」
「どうして演じるんですか。そんなに…辛そうなのに」
刹那、瞳の中に閉じ込められた光が大きく歪む。きっと無自覚に、けれど確かにその艶めきに影が差す。
震える唇を隠すように、樹々瀬くんはゆっくりと立ち上がる。皺一つないシャツが指をすり抜けて行く。舗装済みの道路に伸びる細やかな階段を上るその背は、気高さが染みついているのかこんな時でもシャンと伸びている。
仄かに口を開くとともに、風を纏い夜の街に揺らぐ輪郭が振り返る。
「だって、俺は…”完璧”を演じることで、初めて誰かに必要とされるから」
積年の想いが端々に滲む、空虚で深い呟きに、寂し気に細められた瞳が重なる。今までで一番、弱々しい光だった。泣きたくなるほどに切ない視線が、私の口から言葉を連れ去る。
「昔から、何でもそつなくこなすと周囲に勘違いされやすい自覚はあったんです。太陽曰く、風貌が出来る人のそれでしかない、らしくて。なのに蓋を開けてみたら全てが中途半端。第一印象と実際の乖離が凄まじいせいで『期待外れ』『がっかり』『正直幼すぎて呆れた』だなんて陰で囁かれていたのを知ったのは中学2年生の時でした。他にも色々重なって…何もしていないのに人が離れていく。いや、俺が何もできないから人が離れていくんだ…そう気付きました」
途絶えることなく車が往来しているはずなのに、いやに空気が静かだった。雑音が漏れなく溶けた小川のせせらぎに、冷たい心の内が運ばれていく。
「次の日から少しずつ振舞を変えました。大人しく、品が良いと思われるのを目指して。勉強も頑張りました。着々と順位を上げて一位を取れるまで必死に喰らいつきました。信頼も実績も全てを味方につけられるように、誰にでも好かれる太陽にも力を貸してもらって。すると少しずつ、やっぱり印象通りの完璧優等生なんだね、と評価が刷新されていって…。そうしたら、否が応でも感じました。あぁ必要にされるってこういうことなんだ。今自分は愛されてる、って」



