満天の君と、純白のヒメゴトを。

第三話 星月夜を君に

足を止める。樹々瀬くんが意を決したように、私を真っ直ぐに見据えていた。過ぎゆく足音を上回るように、鼓動が速くなる。

「聞いてもらいたい話があります。いいですか?」


近くのベンチに移動した私たちは腰を下ろす。どちらからともなく端と端に座ったため、不自然な空間が二人の間に形成される。

私は柵の下に流れる川に視線をやりながら、樹々瀬くんが言葉を紡ぐのを待つ。背にした道路から漏れ出でる車のヘッドライトが、私たちを照らしては消え照らしては消えを繰り返す。

「今から話すことは、あくまで独り言のようなものなので…もし耳障りであれば遠慮なく言ってください。すぐに中断するので」

独特な語り出しに若干戸惑いつつも、私は首を横に振る。

きっとひどく真面目腐った顔をしていたのだろう。樹々瀬くんの頬がふっと仄かに緩むのがわかった。

「まず、最初に謝らせて下さい。隠し事に強制的に巻き込んでしまったこと、深くお詫び申し上げます。申し訳ありません」

丁寧に頭を下げる樹々瀬くんは、膝上で両手を握り込む。

「本当は卒業するまで、抜け目なく演じきるつもりだったんです」
「演じる…?」

私と一瞬目を合わせた樹々瀬くんは、一つ二つ深呼吸をすると、凍えた口をこじ開ける。

「完璧でみんなが憧れる理想の’’樹々瀬灯’’を」

そこまで言うと、堰き止めていた想いが溢れ出したのか、俯き加減はそのままに滔々とその先を紡いでいく。

「元々僕は不器用で取り柄なんて一つもないんです。勉強なんて大の苦手。注目を浴びるのも苦手。そもそも人望だって厚くない」
「俄かには信じられないです…」
「そう思われるように演じてきましたから。成績がよければ頼りにされる、皆の先陣を切って前に立てば人望だってついてくる。だから生徒会に入ったような部分もあるし、運動神経が優れているとわかりやすい長所にできる。クールだって評判の性格も、ボロを出さないよう幼馴染の前以外では極力話さないようにしている結果に過ぎなくて…」

濃紺の空の下、何よりも眩しくて、何よりも簡単に消えてしまいそうな光が一人静かに揺らぐ。

「全部全部、打算です。みんなが評価してくれている”樹々瀬灯”は人に見せる準備を施した偽りの煮凝りです」

放っていたらどこかに漂っていきかねない儚さに、私は反射的に手を伸ばす。

今伸ばさなかったら本当に消えてしまう。壊れていなくなってしまう。

そう直感した時には、身体が勝手に乗り出していた。私は樹々瀬くんのシャツの袖の先を摘まむ。
突然込められた力に、樹々瀬くんは驚いたように僅かに目を見開く。

…あぁやっぱりだ。