満天の君と、純白のヒメゴトを。

淡々とした麗しさを湛える瞳に混ざった悲し気な光。瞬きをする度、不安の色が顔を覗かせる。

「どうして…そんなに哀しそうなんですか?」

泣いている。
涙は出ていないのに何故だかそう思った。訴えかけるように心に届く痛切な瞬きが涙の代わりに滲み、そっと消え行く。

いつも、こんな風に泣いていたの?初めて目が合ったあの日も。ずっとずっとずっと。

涼し気で寡黙な人気者…。

そういえば、彼の笑った顔を見たことがある人はいるのだろうか。

けれど、美麗な容姿、恵まれた才能。いくら性格が違うと言っても、その点は変わらないはず。

男子に言わせれば「同じ一般男性なのが信じ難い」女子に言わせれば「一般男性でいてくれて感謝感激」。

そんな彼が何を憂うのか。やっぱりわからない。

「哀しそう…?」

その一言で意識が埃まみれの倉庫に帰ってきた。案の定異様な空気が流れている。

…更に気まずくなってしまった。

私は慌てて棚に向き直り、上段の箱を目がけて手を伸ばす。

「い、いえ。すみません。変なこと言って」

失言を取り繕おうと変に焦ったのがいけなかった。

引き摺り出した箱と棚の接地面が皆無になり、全重量が己の腕にかかった瞬間、異変を察知する。他の備品に比べて明らかに重い。そうとは知らず頭の上で掲げてしまった私は、あっけなく指を滑らせる。

奇妙な体勢のまま備品ごと倒れ込む……はずが、

背中に伝わってきたのは、心地よい温もりだった。

「………焦ったあぁー」

あ、口調が。多分本当の、樹々瀬くんの口調だ。

彫刻のような腕で、樹々瀬くんは軽いはずもない私と醜態の要因である荷物の両者を華麗に抱き留める。その腕の中を、今度はコンマ数秒で抜け出す。

「毎度毎度私如きの不注意に付き合わせてしまい申し訳ありません」
「やっやめてください。おr…僕が気を付けていれば防げたことなので」
「その優しさは他の人に取っておいてください」
「繭菜さんが無事で安心しました。それだけで十分ですから」

いっそ見捨てられた方が清々したけど、さすがは憧れの的。樹々瀬くんの親切さに説得され私はやっとの思いで頭を上げる。

伸ばした背中には、まだあたたかさが仄かに残っていた。
あの時と同じだ。階段で手を貸してくれた時と全く同じ。

生来の話題性、秘密を知ってしまった重責ばかりに気を取られていたけれど。そっか、そうなんだ。

「樹々瀬灯」はきっとーー。

「これ、何でしょうか」