満天の君と、純白のヒメゴトを。

例の如く二人しかいない室内。平然と私を迎える泉くんの腕を樹々瀬くんが掴み取る。

「どういうこと、聞いてないんだけど」
「うん。言ってない」
「何しようとしてるの…」

幼馴染の勘というべきか。後退りする樹々瀬くんの腕をガッチリ掴み返した泉くんは怪しいほどの満面の笑みで私に向き直る。

「ちょっと二人に頼みがあるんだけど」
「一応確認だけど二人とは…」
「繭菜と灯以外に誰が?」
「ですよね」
「前置いてった資料見てたらさ、ここ。ここの欄に書き損じがあるんじゃないかと閃いて」

企みでいっぱいな人差し指の先を追うと、≪備品在庫一覧≫と記された箇所に文化祭準備で使用する道具がズラッと列挙されている。

「そこで文化委員長と、行事統括役の生徒会役員で旧校舎の倉庫に確認に行ってほしいというお話」
「なんで俺が…」
「職務怠慢はいけません」
「そういう話じゃなくて大陽が」
「うんうんうん」
「聞いてよっ」

反論の余地もなく、私と樹々瀬くんは廊下に弾き出される。扉が閉まる。施錠音が響く。

颯爽と締め出しをくらったという事実を一拍遅れで認識した私たちは一瞬顔を見合わせる。

「太陽ーっ!」
「泉くんーっ!」

そんな絶叫もむなしく、泉くんの口笛のみが部屋の中から僅かに聞こえてくる。

くっ、こんな気まずい状況に追い込まれるとは。嫌な予感的中。明らかに複雑な秘密を抱えているであろう学校のアイドルと二人きりなんて。

申し訳ないけど私はそんな業を背負いたくない。
かといって職務放棄もしたくない。

諦めた私たちは粛々と歩き出す。

私は敢えて少し間を空け、道中出くわす人に「樹々瀬くんとは移動の動線が重なっているだけですから」感を演出していく。

万が一樹々瀬くんと二人でいるとバレようもんなら瞬く間に非難轟々、糾弾されるに違いない。

人通りが少なくなってきても、黄色い声は常に絶賛発生中、言葉少なに対応する彼とは念のため距離は開けたまま倉庫に辿り着く。

ギギ…ッという建て付けの悪い音に合わせて、薄暗く古めかしい内装が現れる。押し寄せる埃っぽい匂いに思わず咳き込む。中には夥しい量の備品が。

あの樹々瀬くんと居るにも関わらず、ロマンチックな雰囲気ゼロの空気に思わず乾いた笑いが漏れる。

この中から記載漏れした特定の備品を探せ、と。気まずい上に過重労働では。

そんな小言も心の中だけに留め、私たちは背中合わせになって作業に取り組む。吊り棚から荷物を降ろし箱の内容を確認、資料にチェックを付け戻す…という地味かつ体力が物を言う動作の繰り返しに気が滅入る。

凝り固まった首を回していると、黙々と作業する樹々瀬くんが目に留まる。

引き締まった端正さを纏う横顔は、形容し難いほど美しかった。涼し気で寡黙な人気者。さっきも注目を一身に浴びながら堂々と肩で風を切っていた。

今だって、秘密を知っている私にも凛然とした樹々瀬灯として接しようとしている。背後から大分に感じるヒリつきはきっとそのせい。

思考停止状態でご尊顔を眺めていると、ふと生糸のような髪の毛が微風に靡く。

「どうしましたか?」

不自然なほどに爽やかな口調に合わせて、前髪がたおやかに空中を撫でる。瞳が一層露わになる。

息が漏れる。

以前見た時と変わらぬ綺麗な瞳。なのに、初めて覚える胸の苦しさが確かにあった。
ガラス玉のような透明感に引き込まれ、腑に落ちる。


…あぁ、だからだ。美しいからだけじゃない。この瞳から目が離せない理由は。