満天の君と、純白のヒメゴトを。

第二話 魔法にかかった哀しさ

緊迫感のある音を立て、扉が即座に閉められる。まるで何かを封印するように。いや、何かなんて婉曲的な表現を用いる必要はない。

「うわああああ…」

目の前にはうめき声を上げて頭を抱え込む樹々瀬くんが。

私は大混乱していた。
第一、物静かと評判の樹々瀬くんが、情緒豊かに喧嘩していることが疑わしい。昨日会った時も静謐で所作一つ一つが麗しくて…。

失礼だけど、本物?

お粗末な脳味噌が捻じ切れかける中、一歩も動かない私たち二人を泉くんが素早く回収し椅子に座らせる。中央の長机には山積みになった参考書やら教科書が。

「もうやだあ」と嘆く彼の隣に腰を下ろす泉くんは、向かい合った私をじっと見つめる。

「今の聞いてたよな?」
「聞いてましたすみません」
「このアホが誰かは知覚して?」
「ます」
「ちなみに周りに人は?」
「私しかいませんでした」

尋問を終えた泉くんは虚空を見つめる。
相当落ち込んでいる様子の樹々瀬くんと質問内容から察するに、今の「樹々瀬灯」は、きっと誰にも見られたくなかったもの。でもどうして?

そういえば昨日階段でぶつかった時も所々違和感があったような…?

幼馴染だけの空間、普段の様相とは似ても似つかない言動…もしかして?

「もしかして…樹々瀬くんの本当の姿だったりしますか?」
「え」
「クールとか静謐とか、そういうのとは正反対なのがありのままの樹々瀬くんなのかな…と」

正解を告げる軽やかな電子音の代わりに「ぐああ」という断末魔が発せられる。身体中から力が抜けたのか、椅子からずり落ちた樹々瀬くんはその場に三角座りでしゃがみ込む。