-しかたがなかったことなのよ。
ビル中にあるワンフロアには、その雨音は届かなかった。-
ケイと別れたあと、自宅に着いた私はすぐさまシャワー室へと向かっていた。今日の雨よりも強いそれは、私の考えを纏めて清く流してくれた。
「お嬢様、こちらに置いておきますね」
新しい柔軟剤が私好みだからと、ウキウキとしていたリエ。きっとそれを使ったバスタオルでもマリが置いてきたに違いない。
ケイは、言っていた。「レオンはいつも前しか向いてないから」と。この間も、その前も、幾度となく言っていた。そんなケイも、前を向きながら言っているの気がついているのかしら。
私は苦手なシャワーを俯きながら浴びているというのに。意外とシャレにならないのよ。シャワーが脚光というものならば、私は背に抱えられずに常に逃げ出し可能口を確保しながら駆け続けているのでしょうね。
「もう、レオったら…」
ぶくぶく、と浴槽に溜まった湯を膨れ上げさせた。
あまりにも素敵すぎた。
一つ一つ手縫いで付けられているであろう煌びやかな装飾品。普通にしていても背丈のある者が厚底のブーツを履いて、洒落た帽子はシルクハットにも見間違えた。
素敵すぎたのだ。
私は知っているのに、そのにおいでさえも。スクリーン越しの皆々様には知ることの出来ない繊細な一面を。
私は誰よりも彼の事を知っていて、誰よりも彼の事については勝っていて、そして誰よりも…こうでも思わないと、やっていられなかった。
「お嬢様」
マリだった。颯爽と湯から出ると、受話器が外に置いてあった。-繋がっている。
「レオ?」
疑うこともなく、名指しをした。
知っている。彼が私のことをどうしようもなく好きだということを。心から想われていることを。彼の意中の人だという特権を、私から奪うことなんて誰にもできなくて、そんなこと、誰にもさせなくて。
「I love you」
見たんでしょ?そう、言っていた。それに嫉妬した私へのお返事。いつもいつも、先手を行く彼に、私は-
「知ってるわよ」
冷たくあしらって、世間様へドヤ顔をするの。

ーこれまでの私達を、皆様にお届けしたい。ー



