車中に付属されているテレビモニターが急遽電源オンとなった。
薄明かりへと目をやると、僕は目を見張った。彼女はどうしているだろう。薄っすらとした希望から、僕はモニターから目を離せなかった。
「あら、もう出たのね」
「知っていたの?ゆりちゃん」
背もたれにもたれかかっていた彼女…ゆりあ…【ユリア・ド・ローズ】もモニターに入り込んでいたのか、その背は前のめりになっていた。
「つい数日前よ、スクープされるって、"マリとリエ"からお知らせが来たの。こういうのって、1ヶ月後や数ヶ月間を置くものじゃない。だから、」
「へえ、マリエさんがねえ…うん」
"マリさんとリエさん"、合わせてマリエさん、僕はそう呼んでいる。
ゆりあことゆりちゃんは、芸能という業界について妙に詳しい。のも、そのはずで、今正にモニターでスクープをされている彼【春雨レオン】は、ゆりちゃんの婚約者である。
そのレオンを板挟みにして、ゆりちゃんと僕との間には溝がある…レオンは両親共に芸能人の芸能一家で、僕は普通の一般人だ。それにゆりちゃんのお母様も女優ときたら、この手の話になれば僕は置いてけぼりなのである。
「また、もう…こんなシーンを」
ゆりちゃんが呟いた。
僕達へ向けて差し伸べられた手は、宙を掴むでもなく、スクリーンの向こう側、はるか先の国へも届きそうな勢いで届けられていた。
ブロンドヘアーにブラウンの瞳、鼻筋が通り邦人離れした鼻筋の高さに程よい厚さの唇、彫刻のような彼の顔を業界特有のメイクで施され、煌びやかな照明で当てられれば、それはもう芸術品の中でも一際輝く骨董品であった。
そんな彼を、ゆりちゃんは惚れ惚れともせずに蹴散らして見るのだから、彼女は僕の中で最もスターなのだと改めて感じさせられてしまった。
「何が、よ」
【歌って踊れる、若手役者!レオン様】
「すごいね、レオンは」
ゆりちゃんは膨れていた。モニターのテロップは、きっとカメラの向こう側で輝く彼をずっと追いかけている。ゆりちゃんもきっと彼を追いかけずにはいられなくて、きっと彼(レオン)も…止めることはないんだ。
もう僕らは、後には引けなかった。



