pm05:38
部活帰り、友人複数名と歩いていた。葉桜がほぼ無くなり、新緑に彩られた並木路は新たな歓迎の意を示しているかの様だ。
僕は春休み中、迎えの車は断っていた。少しでも友人との時間をつくりたいからであった。授業がないこの期間、学外での交流を親睦とする良い機会であるから。
涼しい風の中、人混みをかき分け、僕らは喫茶店へ向かう。人々は帰路へと向かい、恋人たちは待ち合わせへと華咲かせ、子供たちは夕食へと遊びの報告を持ち帰る。
僕らも目的地へと着くと、外観からも分かる、煉瓦で敷き詰められた純喫茶がお出迎えしていた。花壇や花瓶のお花が変えられている。桃色から白や橙色へ。いつも綺麗にしているが、季節の変わり目を感じ取った。
入り口で、ショーケースに入ったケーキを眺める。いつもながらに見てとって舌舐めずりをしたくなる程には美味しそうに並んでいた。
他に客はいない。不自然に思い、外にはopenと描かれた看板がある事を思い出す。確かに開いているのに、誰一人としていない。店員も、マスターも。いつもそこそこ賑わっているため余計に不自然さを覚えた。
友人等は勝手に、特等席へと向かう。仕込みだろう、会議だろう、買い出しだろう、何となくの理由をつけていつも通りの行動をとった。
テーブルにはメニューが置かれている。いつもは無いのに。
キッチンが忙しいのかもしれない。でも、ケーキは全てホールのまま、一切れも残らず置かれていた。あれはただの伊達ものではない。
すると、ドリンクを尋ねにお姉さんがやっと来た。
「メロンクリームソーダ」
「ブレンドコーヒー」に「オレンジジュース」
甘い物が苦手なのと炭酸が飲めない友人2人。
「いつものですね」
笑顔は変わらない。それこそいつもの営業スマイルで。
話が弾む。新学期、学科やクラス分け。部活明けの渇いた喉に、甘い微炭酸が弾けた。バニラアイスが程よく溶け、口の中から頭へと甘味を運ぶ。桜桃を手に取ると、1人がスマホと真剣に向き合っていることに気がついた。もう1人はその隙に、フードメニュー表に手を伸ばす。
カランカラン
入り口の鐘が鳴る。お客さんが来た合図だ。しかし店員は来る気配がない。だけれど目の前に来ていた、スタスタと足音も無しに。
「お迎えに参りました」
迎えは断っていたのに、よりによって。
「今?」
「はい、正しく」
「どうやって」
「ご存知の通り」
カジュアルに着こなしたそのスーツが、嫌味に高級な代物に見えさせてくる。男は慎ましく、表情を変えない。
僕は呆れた…きっと外には新品の様に磨かれた車が待ち侘びている。そこから出てきた男の、鈍い光を放つ眼鏡も、凝りに凝った一点ものの私服も。
「みんな、自由にしてていいよ。…ここ、僕んちになっちゃった」
笑いながら2人に説いた。
僕は取り憑かれている、ヴィンテージという名の古着に。
開かれたメニュー表には、
Deep GREEN の文字が刻まれていた。
それはいつの日か。
18回目の誕生日を迎えた私達は、
密かに身支度を整えていたー
部活帰り、友人複数名と歩いていた。葉桜がほぼ無くなり、新緑に彩られた並木路は新たな歓迎の意を示しているかの様だ。
僕は春休み中、迎えの車は断っていた。少しでも友人との時間をつくりたいからであった。授業がないこの期間、学外での交流を親睦とする良い機会であるから。
涼しい風の中、人混みをかき分け、僕らは喫茶店へ向かう。人々は帰路へと向かい、恋人たちは待ち合わせへと華咲かせ、子供たちは夕食へと遊びの報告を持ち帰る。
僕らも目的地へと着くと、外観からも分かる、煉瓦で敷き詰められた純喫茶がお出迎えしていた。花壇や花瓶のお花が変えられている。桃色から白や橙色へ。いつも綺麗にしているが、季節の変わり目を感じ取った。
入り口で、ショーケースに入ったケーキを眺める。いつもながらに見てとって舌舐めずりをしたくなる程には美味しそうに並んでいた。
他に客はいない。不自然に思い、外にはopenと描かれた看板がある事を思い出す。確かに開いているのに、誰一人としていない。店員も、マスターも。いつもそこそこ賑わっているため余計に不自然さを覚えた。
友人等は勝手に、特等席へと向かう。仕込みだろう、会議だろう、買い出しだろう、何となくの理由をつけていつも通りの行動をとった。
テーブルにはメニューが置かれている。いつもは無いのに。
キッチンが忙しいのかもしれない。でも、ケーキは全てホールのまま、一切れも残らず置かれていた。あれはただの伊達ものではない。
すると、ドリンクを尋ねにお姉さんがやっと来た。
「メロンクリームソーダ」
「ブレンドコーヒー」に「オレンジジュース」
甘い物が苦手なのと炭酸が飲めない友人2人。
「いつものですね」
笑顔は変わらない。それこそいつもの営業スマイルで。
話が弾む。新学期、学科やクラス分け。部活明けの渇いた喉に、甘い微炭酸が弾けた。バニラアイスが程よく溶け、口の中から頭へと甘味を運ぶ。桜桃を手に取ると、1人がスマホと真剣に向き合っていることに気がついた。もう1人はその隙に、フードメニュー表に手を伸ばす。
カランカラン
入り口の鐘が鳴る。お客さんが来た合図だ。しかし店員は来る気配がない。だけれど目の前に来ていた、スタスタと足音も無しに。
「お迎えに参りました」
迎えは断っていたのに、よりによって。
「今?」
「はい、正しく」
「どうやって」
「ご存知の通り」
カジュアルに着こなしたそのスーツが、嫌味に高級な代物に見えさせてくる。男は慎ましく、表情を変えない。
僕は呆れた…きっと外には新品の様に磨かれた車が待ち侘びている。そこから出てきた男の、鈍い光を放つ眼鏡も、凝りに凝った一点ものの私服も。
「みんな、自由にしてていいよ。…ここ、僕んちになっちゃった」
笑いながら2人に説いた。
僕は取り憑かれている、ヴィンテージという名の古着に。
開かれたメニュー表には、
Deep GREEN の文字が刻まれていた。
それはいつの日か。
18回目の誕生日を迎えた私達は、
密かに身支度を整えていたー



