学校には遅刻したが、届けは出していたので特に何も言われず、放課後になった。
重たいカバンを持って、廊下を歩く。
「あれ、妹らしいよ」
「まじ? 優秀なん?」
「お前が知らんって事は、そういう事だろ」
またコノミの耳に入る、誰かの話。
この話は中学時代の友達には言っていない。
聞けば不快な話だと、わかるから。
自分は相談に乗る側で、相談をしてしまったら自分の価値がなくなってしまう。
そう、コノミは思っている。
誰かに頼られる事が、コノミの存在を維持しているのだ。
でも梅雨鬱々倶楽部の、あの人ならば相談じゃなくて現状として聞いてくれるかも?
とナギサを思い出す。
そして痛む心。
梅雨鬱々倶楽部は、梅雨の間だけ。
梅雨が開ける頃には……ナギサは死んでしまう……?
きっともっと、この傷は深くなる。
彼と会えば、会うだけ……深く深くなるのがわかる。
でも、コノミは公園へ向かった。
まだ暗い雨は降り続く。
皆が空を見上げて、嫌な顔をした。
「お菓子って食べられるのかな……? アレルギーとかあるかな……ダメかな」
彼の身体の事は、よくわからない。
コノミはあの公園のベンチでお菓子を食べるのも好きだったが、買うのをやめた。
冷たくて、暗い雨。
でも梅雨鬱々倶楽部には似合う。
「ナギサくん……」
ナギサは、屋根ベンチに座って雨を眺めていた。
「やぁ」
彼は長い前髪を揺らして、コノミを見る。
冷たくて、暗い雨で、梅雨鬱々倶楽部の二人。
でも、コノミの心にジュッと何か熱いものが生まれた。



