でも、それは叶わない夢。
「じゃあ僕はレモンティーを選ぼうかな」
「レモンティー気に入った?」
「うん。ありがとう。頂きます」
ナギサはペットボトルの口部分を綺麗なハンカチで拭ってから、コノミに渡した。
「えへへ。私は、ミルクティー大好きなんだ!」
「うん。そうなんだってわかったよ」
「へ……」
「君の好きなものが知れて、嬉しい」
コノミがミルクティーを好きだと理解して、ナギサは渡したようだった。
家では、まず優秀な姉が選び、コノミは余ったものを選ぶのが当然だった。
自分の好きは後回しにしてきたから……こんな風に気遣われたのは、初めてだ。
「レ、レモンティーも好きだよ」
「うん。わかるよ」
こんなにドキドキするティータイムも初めてだ。
ミルクティーもレモンティーも大好きだけど、一番大好きなのは……。
「じゃ、じゃあこっちのお菓子も食べようね!」
「嬉しいよ。甘いものはあまり食べないから」
「美味しいから、いっぱい食べて」
甘いミルクティー。
甘い焼き菓子。
「美味しい。コノミは美味しいものを探すのが上手だね」
間接キスなんて、考えなくてもドキドキして楽しくて嬉しい。
ナギサが、自分を見てくれて認めてくれるのが嬉しい。
「今日は少しでも御礼になればいいと思う事と、あと……君には話しておこうと思う」
「……なに……?」
雨音が二人を包んで、ナギサの微笑みが消える。
「少し暗くなってから、でもいいかい。僕には時間を決めることができなくて……」
「う、うん……よくない話?」
「よくないというか、これから起きることの説明……かな」
「説明……」
「それと……少しだけの御礼」
「御礼なんて……今日は気が済むまで此処にいるね。暗くなっても……」
今日は整骨院に寄ってから帰ると言ってある。
両親も忙しく、数日コノミに厳しくしていたので今日ならばきっと誤魔化せると思う。
「大丈夫?」
「うん! ……迷惑?」
「そんな事ないよ。長く一緒にいられたら……僕は、きっと嬉しいと思う」
「……嬉しい……?」
心臓が疼く。
「だって、友達と長く一緒にいるのは初めてだから」
「そうだよね……」
「一緒にいるのは嬉しいよ」
「……うん、私も嬉しい」
またジリリと熱くなる心。
薄暗くなっていく公園。
降り続く雨。
そういえば学校の周りは、今日は雨は降っていなかった。
ここまで酷い雨が街にずっと降り続いていたら、何か注意報や警報が起こりそうだが、その気配は無い。
真っ暗になった公園に、まだ雨は降り続く。
いつの間にか、握られた手。
どちらからともなく……ではない。
コノミは知っている。
ナギサから握ってくれたことを。
この握った手が何を意味するのかは、わからない。
でも、ただ嬉しくて温かい手。
お互いに手を繋ぎたいという気持ちが、一緒だという証だ。
「真っ暗だね……真っ暗雨」
ちょっと恥ずかしさを誤魔化すために笑って言った。
でも隣のナギサは、少し険しい顔をして、暗い雨の先を見ている。
「……ナギサくん……?」
「……来る……」
「え……?」
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン
オオオオオオオオオオオオオオオオン
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン
公園に響く何かの音。



