このまま抱かれてしまいたい

「こんばんは、沢田さん」

「こちらにどうぞ、沢田さん」

「おつかれさまでした、沢田さん」

 こうやって名前を頻回に呼ぶのは、接客する上での戦略だということは分かっている。それなのに、彼に下の名前で呼んでもらえたら…などと思うようになってしまった。

 目を細めて穏やかに笑う彼を、毎日見ることができたら…。

 いつも温かい彼の手を、服やタオル越しでなく、素肌で感じることができたら…。

 邪な思いがぐるぐると私の胸の中で巡り続けている。それをひた隠して、今日の夜も整体院のドアを開ける。

「こんばんは、沢田さん」

 彼の声を聴いただけで、顔を見ただけでドキドキと胸が高鳴り気持ちが高揚する。

 例のごとくマットの上に仰向けになり、いつもの施術に入る。整体師やマッサージ師とか、こんなにベタベタ人の身体に触って、時には際どいところだって触るのに、女の人の身体でも何とも思わないのだろうか。思わないんだろうな。あくまで仕事なのだから。なんだか寂しい気もする。

「お腹触りますね」

 右腹部を指先で触られた。腰痛の原因になっている腸腰筋内のしこりを探しているのだ。そこを触られるといつも痛いのだが、今触られているところに痛みはないのでそこは違うということだ。

「このあたりどうです?」

「いや…もっと下、かな…」

 彼の手が徐々に下腹部に降りてくる。ほら、顔色ひとつ変えずに指先でぐりぐりやるものだから、こちらはたまらない気持ちになる。ただの整体の施術に何をドギマギしているのだろう、と内心自分を嘲笑う。