このまま抱かれてしまいたい

 この日も金曜日の仕事帰りの夜。たどり着いた整体院は、さほど大きくはなく、駐車場も車が2台停められるくらいのスペースしかない。煌々と明かりが洩れるそこの玄関の引き戸を開けると、にこやかに微笑む30代半ばくらいの男の人が部屋の中央あたりに立っていた。落ち着いた色の茶髪で緩めのツイストパーマに丸眼鏡。背丈は165cmと女性にしては高めの私と変わらないか少し低いくらいかもしれない。なんとなく人当たりが良さそうな顔をしている。

「こんばんは、沢田さん」

 名前を呼ばれてドキリとした。

「辻村といいます。今日はよろしくお願いしますね。こちらへどうぞ」

 玄関に近いところに置いてあるソファに座るよう促され、私は言われるままそこに座った。院内にはオルゴールの音楽が静かに流れていた。12帖くらいの広さだろうか、院内もこぢんまりしている。

「最初に問診表を書いていただきますね」

 バインダーに挟まれた問診票とペンを手渡された。私はざっと内容に目を通し、項目にしたがって記入していった。彼は私が書いた問診票を見て何度か頷き、「なるほど」と言った。

「首、肩、背中、腰の痛みに頭痛…身体の痛み、しんどいですよね」

 彼は共感するようにまた何度か頷いた。

「デスクワークが多くて、身体全体が縮こまっている感じがするんです」

「やっぱり長時間座っていると筋肉が緊張し続けて血流も悪くなるし、筋肉も固くなっちゃうんですよ。縮こまった筋肉をほぐしていきましょうね。それでは施術に入りますね。荷物はこのカゴに。こちらの長椅子にどうぞ」

 首、腰、腕の動きを確認したのち、肩にタオルをかけられた。

「触れますね」

 一言置いたあと、彼は私の後ろに立ち、私の右鎖骨の下を右手の4本の指先でさすり始めた。激痛である。

「めっちゃ痛いです!」

「随分凝ってますね。胸の筋肉がだいぶ固いです」

 別に乳房を触られているわけでもないのに、『胸』というワードに、私のおっぱいは固くないし…となぜか不服に思ってしまった。