first date

「あ、もしかして彼氏いる？」

「いや、いません、けど…」

「じゃあお願い」

「そんなこと言われても…」

「お金は払うよ。変なことはしないから」

　いつの間にか壁際まで追い詰められ、背中に壁が当たった。


「なんで私…？」

「君を見ていると、何かすっごいアイディアが出そうな気がするんだ！」

　彼は息を巻いて勢いよく両手を壁についたものなので、大きな音が店内に響いた。

「あの、お静かに願えますか？他のお客様のご迷惑になります」

「あっ…すみません」

　彼は我に返って自分の席に戻った。

「話が全然分からないんですけど、どういうことですか？」

　私は彼の右隣の席に座って話を聞くことにした。幸い今は空いているので少しくらい彼に時間を割いてもいいだろう。

「実は僕、物書きをしてるんだけど、編集者に恋愛ものを書いてほしい、ある小説誌に連載したいって言われてね。今までいろいろ書いてきたけど、恋愛ものって書いたことなくってさぁ、全然筆が進まなくってねぇ。困ってるんだよ」

　彼は腕組みをして渋い顔をした。

「そもそも恋愛ってどうするんだっけ？って。随分と恋愛から遠のいちゃったもんだから、恋愛そのものがどんなものだったか忘れてしまったんだなぁ」

　彼は腕組みをしたまま、遠い目をした。

「はぁ」