一瞬、沈黙が落ちた。
呆気にとられたのは、悠真だけでなくわたしも同じだった。
「……は?」
「それとも付き合ってるとか?」
こてん、と大和くんは首を傾げる。
「な、ない! 付き合ってない」
慌ててそう否定すると、彼はふわりと柔らかく笑った。
分かってた、とでも言いたげな反応だ。
「うん、そうだよね。風ちゃんには俺がいるんだし」
満足そうな顔をしていた。彼にしてみればそうなのかもしれない。
わたしに歩み寄ると、そっと顎をすくう。
「……ってことで、問題ないよね? 好きなだけ触れるよ。会えなかった分」
彼はまた、悠真ににっこりと笑いかけた。
だけどその瞳には挑むような気配があって、まったく笑っていない。
「ち、ちょっと……!」
あまりにも近い距離感は、わたしにとっても毒だ。
心臓がもたない。
大和くんの手をどうにか剥がすと、助けを求めるように悠真を見た。
彼がまたたしなめてくれないか期待した。
「…………」
けれど、悠真は何も言わずに顔を背けた。
そのまま離れると、きびすを返して自分の席へと戻っていってしまう。
「……分かりやす」
わたしの身長に合わせて身を屈めていた大和くんが体勢を戻しつつ、小さく呟いたような気がした。
それはほとんど休み時間の喧騒に紛れていたから、もしかすると気のせいかもしれない。
こちらに視線を戻した大和くんは「そうだ」と思いついたように口を開く。
「風ちゃん、一緒に昼食べていい?」
「あ、うん! もちろん」
「あとさ、できれば校舎の案内とかもして欲しいな」
「わたしでよければ全然するよ」
何となく戸惑いが抜けきらないで、接し方を決めかねている部分があった。
けれど、大和くんはそれさえ見透かしたような、余裕のある完璧な微笑みをたたえる。
「ありがとう、風ちゃん」
ほかの人への笑顔とは、態度とは、明らかにちがっていた。
うぬぼれでも勘違いでもないことは、彼の眼差しが物語っている。
彼にとってわたしは特別な存在なのだと、照れくさいけれど自覚するには十分すぎる。
身に余るほどの想いがあふれて、溺れてしまいそうだ。



