シュガーな悪魔とビターな天使

「はーな。何ボケっとしてるの?また転ぶよ」
「……今度こそ、姫抱っこか?」

夕日に照らされたきれいな横顔。
気づいたら、晴斗も雪斗も私のことをのぞきこんでいる。

「ん、なんでもない」
「なんでもない顔じゃねえと思うけど……」
「だいじょーぶだよ」

少しだけ、不安なだけ。
言葉を口に出さずに飲み込んでいると、晴斗にほっぺを引っ張られた。

「こら!にゃにするの!」
「隠し事なんて華は悪い子だな。そんな奴には……お仕置」

文句を言おうとしたところで、右のほっぺに不思議な感触。
一瞬ほっぺに触れたのは、晴斗のくちびるだ。
えっ、これって……キ、キス?

「へっ?は、晴斗!こら!」
「華。家まで競走」

ほっぺが、かーっと熱くなる。
晴斗は、いたずらな笑顔でそう言うと走り出してしまう。



「……もー!晴斗ったら……アイツになんとか言ってやってよ、雪斗」

照れたのを笑顔で誤魔化しながら、雪斗の方を見る。
すると、思ったよりずっと近くに立っていた雪斗は、ため息をついて。

「早速抜けがけしやがった、晴斗……。華、じっとしてて」
「えっ?」

言われた通りにじっとしていたら、雪斗は、左のほっぺにキス。
えっ!えーっ!!

「家まで競走、な」

雪斗も照れた顔でそう笑うと、手招きをしてから走り出す。
もう、2人とも……!


「し、しかたないなあ……」

両方のほっぺを手でおさえる。
すごーく、熱くなってる。
今の私、きっと顔が真っ赤だな、この夕日よりも。

恥ずかしさを紛らわすように、私は駆け出した。
ちょっと先で待っている2人のところへ。



これから2人との関係がどうなっていくかわからないけど。
それでも私が晴斗と雪斗のこと大好きなのは変わらない。

恋って甘いけど、うまく行かない苦いところもあるんだね。
お砂糖入りのコーヒーみたいで、不思議。

今は2人にはもうちょっとだけ、答えを待ってもらおうと思う。
もうちょっとだけ、今のままでいさせてもらおうと、思う。

2人が向けてくれる『好き』がまぶしくて、私は少し目を細くした。