〜ミミコイ〜ミミから始まる10秒間

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【Ch.0】


「他に好きな人が出来て……だから」

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【Ch.1】


あれから5年


「ん……またあの夢か……あれ?
えぇぇぇぇ寝坊したぁー!!!」

飛び起きた拍子に
枕元のアクスタが倒れて
推しグッズの山が崩れ落ちる

悪夢で目が覚めて
部屋の時計に目をやる

本来鳴るはずのアラームは7:20

只今の時刻……7:50

完全にオワタ

普段なら車でぶっ飛ばせば
職場にギリギリ間に合うけど

今、私のマイフレンド(車)は
車検でご不在

まぁ……普通は代車借りるよね?

でも車屋のおっちゃんが


「ほたるちゃーん!

ごっめんねぇ〜
今、代車切らしててさぁ

頑張って早く返すから
数日は、バス通勤よろしく〜」

って

えぇ、でも結局
寝坊した私が悪い

だって昨日は
私の最愛の推し……

声優・天川りく様が
声を当てていらっしゃる

『青葉学園〜コイはここから〜』
(略してアオコイ)の
放送開始日だったんだもん!!

深夜枠な為
リアルタイムで拝みたい私は
無駄に頑張って徹夜

最高のエナジードリンク
天川りく様(推し)を摂取した後……


「あと2時間寝れるわ、寝よ」

現在に至る

バカ! 私のバカぁ

あのまま
オールした方が
安定の寝坊回避だったかもしれない

職場には
本当に大変申し訳ないけれど

今は人件費削減で
早上がりするくらい暇だし

普段から滅多に休まない
皆勤賞従業員なので……

本日は、会社を
ズル休みさせていただきます!!

ぽちぽちスマホを触っていると
アオコイ公式からの通知が目に入る


『第1話ご視聴ありがとうございました
天川りくさんからのボイスメッセージを公開中』

えぇ?! そんなのあるの!!

ヤバい、聴きたい
聴くに決まってるじゃないですか

再生ボタンを押した瞬間

あの声が
イヤホン越しに耳に流れてくる

あぁ……この人が
同じ空の下にいるんだよなぁ

会えるわけないのに
なんでこんなにドキドキするんだろう。

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【Ch.2】


「はぁ……」

職場に連絡を入れて
ため息がこぼれる

会社の売り上げが
下がってるとはいえ

めちゃくちゃ心配してくれた
上司の前川さん(神)には
罪悪感しか感じない

やっぱりズル休みなんか
するもんじゃないなぁ……

明日、お詫びのお菓子買って行こう

でも、せっかく頂いたお休みだし
満喫してもいいよね?

という訳で……
私、夏川ほたる
ズル休み満喫中でございます

数時間前に拝見した
『アオコイ』のりく様のシーンを
朝から何度もリピート……


「しょうがないから守ってやる」

推しの声を聞いただけで

体の奥底から
何かが溢れ出そうになる

of……あぁ、神よ
耳が悶え死にそうです

お願いしますから
一生守って下さい!!

わぁ〜もう耳が
朝から幸せ過ぎるんだが……

そんな幸せを噛み締めていると

突然お腹から
「ぐぅぅうぅ〜」と爆音波が流れる

時計に目をやると、8:35
さすがにお腹も空くよね

って事で
一応軽く変装して
コンビニにでも行こうかな

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【Ch.3】


家のドアを開けて
徒歩で着くコンビニに
とぼとぼと歩いて向かう

周りは、通勤中の社会人や
学校へ向かう学生で賑わっている

まぁ普段は
私も、その一人なんだけど

いつも車通勤だから
余計に人混みが億劫に感じる

ぼーっとしながら歩いていたので
前から早足で歩くその人に気が付かず……

ドンッ!

結構な勢いでぶつかった瞬間
お互いによろけて
お尻を付いて転けてしまった


「「すみません! 大丈夫ですか?」」

まさかハモると思わなくて
一瞬……間が空いて
クスッとお互い笑みをこぼす


「立てますか?
ごめんなさい、急いでいたもので」

黒髪にフワッとパーマがかかっていて
シャープな顔立ちをした
高身長なお兄さんは

手を貸してくれて
私を軽々と立たせる

しかも、なんだかどこかで
聞いた事のあるような声に
一瞬だけ耳の奥がぞくっとした

きっとお兄さんも
いつもの私と同じで
仕事前に急いでいたんだろう

そもそも
ぼーっとしていた私が悪いし


「こちらこそ!
ぼーっとしていてすみません

お仕事頑張って下さい」

「ありがとう」

優しく微笑んだお兄さんと
軽く会釈して、別れた後……

なんだろう……
私は、耳から胸がドキドキして

しばらく動けず
その場に立ち尽くしていた

ふと、下を見ると
さっきのお兄さんが
落としてしまったであろう
何かの冊子のような物が落ちている


「青葉学園〜コイはここから〜……」

……っ?!!
こ、これは……

まさかと思い
咄嗟に冊子を開くと
間違いなくこれは
アオコイの台本!!

という事は
さっきのお兄さんは
アオコイの声優さん……

私の耳が腐ってなければ
地声ではあったけれど
あの声はどう考えても……


「あ……え……ちょ……」

りく様!!!

言葉にならない程の幸運が
私の胸に一気に詰め込まれる

りく様の声だったから
さっき親近感が湧いたんだ

あぁ、神様……幸せすぎます
私、もう死んでもいいかもしれない

寝坊して
ズル休みしたのにも関わらず

こんな、こんな幸運に
巡り会えるなんて!!

死んじゃいそう
もう泣いちゃう

……いや、ちょっと待てよ
まだ、死んじゃダメだ

台本にビッシリと書き足された文字
こんなに一生懸命頑張っている推し

これが無いと
きっと相当困るに違いない!

で、でも……どこに
持って行けばいいんだろう

数秒悩んだが
推しが困っているのに
こんな所で足踏みしてる暇は無い

レコーディングスタジオを
徹底的に回ろう!

反射的に
目の前に通りかかった
タクシーを捕まえて

近場のレコーディングスタジオに
片っ端から向かってもらう






1つ1つ可能性を潰して、3件目……

偶然、りく様と親しそうな方と
遭遇する事が出来た


「お忙しいところすみません
今、この台本を落とされた
声優さんを探していて……

きっと天川さんの
台本だと思うんですが
こちらにいらっしゃいますか?」

「それなら俺から
りくに確認するよ

ちょっとあそこで
座って待っててくれる?」

「はい、よろしくお願いします!」

童顔系な爽やかお兄さんに
指さされた椅子に座って……

ようやく自分が
普段ではしないような行動力を
発揮している事に気が付き

急に恥ずかしくなってきた

陰キャは
普段こんなに頑張れないし……

いや、推しへの愛の力かも

それにしても
なんだかすごく眠い

あ、そっか私、りく様を
リアルタイムで見たくて
今日2時間しか寝てな……いか、ら……

必死に睡魔と戦ったが
私の意識は
いつの間にかそこで途絶えた。

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