正妻がいないのに先に側女を作るとは...と訊きたくなったが。
口が減らぬことは大きく品位に欠けるのである。
「......いえ。...少しご猶予を。父母に報告を致します」
「それはもう、してあるぞ」
「...かの芳生に、言葉を濁さずはっきり側女と仰いましたか」
「.........」
目を逸らした男は案の定だ。
本当に口が上手いことよ。
きっと父上も母上もそれとなく都合よく勘違いするように話したんだろう。
「でしたらお時間を頂く。きちんと伝わっていないのであれば」
目を見てはっきり告げると、鬱陶しそうな視線を投げられた。
用、とはそれだけらしかった。
しかしここからなのだ。
私の話こそが本題なのだ。
隅に控える付き人を見遣り、出て行かせろと諒成に目配せをするが、まるで通じない。
口に出さねば分からないか、こいつめ。
「殿。人払いを」
「......」
「殿」
黙りで誤魔化すな──という偉そうな発言は控えた。
...言ってしまえば身の程知らず。
それこそ恥である。
身分の差は既に遥かに開いてしまったのだ。
いつまでも幼子の頃のままではいられない。
...相手が幼馴染であろうが誰であろうが、今は今。
じっと見つめると彼は仕方なく頷き、従者は退出した。
「諒、忘れたのですか。我が母の教えを」
「...急に何だ」
「火の手は我が邸宅の南の庭まで届いたといいます」


