憂いの月



「観、...答えは出たか」

「それが...その、色々......ありまして、」

「は?...言ってみろ」


内裏に来て初日のことなど...忘れる程忙しくする日々。

清菊様の着替えを待っていた今朝。

厳つい面々が「来い」と一言言われ半ば強引に連れてこられたのだ。


初めは何も思い当たらず、心臓が縮む思いで助けを呼ぼうとした───が、いつかの物々しい入り口が見えると途端に察した。


瞬間、別の意味で肝が冷えた。


案の定いつにも増して不機嫌そうな面持ちの太政大臣殿。


「実は...木白殿の清菊様が我が琴の腕を気に入って下さり、この度女房として──」

「あ?俺は許した覚えが無い」

「宴が開かれた夜のことゆえ、殿には──」

「どこのどいつだ?」

「だから、...木白のお家の姫君でございます!」


苛立ちを隠さない諒成に、少し声を荒げてしまった。

長いため息をつく横顔を見て、一抹の不安が芽生えた。


「...長居しているとは思っていた。両親は帰ったようだったがおかしいなと」

「殿のことながら、お調べにはならなかったのですか?」

「生憎俺は暇でなくてな」

「...はあ、それはご無礼を」



...早く戻りたい。



「...仕方ない、この話はなかったことに。下がれ」





ここに来てから随分長く待たされたというのに。




ここに呼ぶまで諒成は沢山待ったというのに。




そうやって足早に。



お前はそうやってすぐに〝無い〟ことにしてしまうの?