憂いの月



白に囲われた板の間と几帳の葉の紋様は、末裔まで廃れることのない行く末を表すという。

安達は、内裏では如何なる評判なのだろう。


盲目の正妻。

入内せず遊び暮らす一人娘...


内裏での女たちの噂話を少し聞くところ、考えていたより称りは悪いのだろうか。



何せ芳生は、本邸で政の話を嫌がる。

木白の姫君はそれをお尋ねに呼ん──


「観子!」


振り返れば、昨晩の美女...清菊である。



「...木白殿の姫君。改めまして、」

「おい、観子。何と呼べと申した」

「...清菊様とお呼びするに、かたじけない身にございます」


明るい陽の下でみると、正に表現し尽くせない美しい姿。


「構わん。楽にし...そして清菊と呼べ」


異常に呼び名に拘る者だ。


「では、清菊様。お声賜ったのはどんな理由で?」

「観子...お前、(きん)に秀でておると?」

「たしかに、先夜の宴で弾きました」

「観子。この清菊に仕え、琴を聴かせ、手の教示給えよ」


...きよぎくにつかえ、

きんをきかせ、


〝ひきかたをおおしえする〟



ひきかた


おおしえする



「──聞いているか、おーい」


「は、...はい、清菊様」


「おぉ、良いか。決まりじゃ」


「...え、」

「素直に引き受けるとは良きおなごやの。今日からそなたの主は清菊である」


「えぇ...、ええ〜...っ!」


どこから同意の流れになったのか...訊きたいのは此方である。


「では観子。父上には清菊が話しておく」


──そしてなぜ我が名をこれほど呼ぶのか。



「観子...良き名を賜ったものだのう」


此方を一瞥し微笑む彼女に、刹那...目眩がした。