幼馴染との婚約を解消したら、憧れの作家先生の息子に溺愛されました。

 驚いていると、桐人さんも驚いた表情を見せて立ち上がった。

「まさか、気づいていなかったんですか。これだけ一緒にいて、あなたに惹かれないわけがないでしょう? 病院の屋上で悩みを打ち明けられた時、右手の指輪がなくなっていたことに気がつきました。これはチャンスなのではと、多少の下心も抱きました」

 真っ直ぐに見つめられたかと思うと、今度は申し訳なさそうに眉を下げる。
 桐人さんの手が、少しだけ震えて、しっとりとした感触が伝わってきた。
 
「ちゃんとしたプロポーズは、事が終わるまで我慢していました。あなたが納得できる結果になったら()おうと。だけど……。すべて終わっても、あなたの心は晴れないままのようですね」

 見透かされている。
 一体この人は、どれだけ私を見つめて、どれだけ私の心をわかってくれているのだろう。
 その優しさに、心がほんのりと満たされていく。

「言ったでしょう? 僕はしのぶさんを信じると」

『信じる』
 なんて強い言葉なんだろう。
 そう言われるだけで、安心してしまう。
 
「だから……。僕ではだめですか? 僕がしのぶさんの元気の素には、なれませんか?」

 そう言って桐人さんは、私の左手を取る。