俺は売れないネット作家、松村勇作(まつむらゆうさく)30代中年。「ウルフちゃん」小説投稿サイトで主にハードボイルド小説を書いている。
 つややかな黒い長髪、切れ長の大きい目、黒い瞳。フェイスラインはシャープだ。鼻筋は通っているほう。唇は薄い。背は高く、がたいはいいほう。そこそこ顔はいい方だと思う。イケメンの方だと思う。
 売れないものばかり書いているので、顔だけで書いている、と言われる。
 顔だけのやつが、とよく言われる。
 かっこだけ、とも言われる。かっこだけのやつはかっこだけで書くのさ。
 かっこよさしかないやつが、と言われる。
 あんな美少年が、というやつもいる。
 「ウルフちゃんやってるやつ」とも言われる。

 地域での評判は悪い。ヤンキーと呼ばれる。ウルフちゃんやめろ、というやつもいる。
 地域の女子中高生にも馬鹿にされている。うわさ話や陰口、からかいをやってくる。「ばい菌」と言ってくるやつもいる。ばい菌呼ばわりだ。

 街の不良少年たちと喧嘩の日々だ。

 俺はワンルームマンションに住んでいた。近所じゃ不審者と言われる。不審者呼ばわりだ。あのやくざ、と言ってくる奴もいる。ハードボイルド小説とか書いていると、そのように言うやつもいる。
 マンションから出ると、「不審者出てきた」とかいう失敬なやつもいる。
 主婦やおばさんが噂をたてる。「大きい夢となないの?」とか言い立てるものがいる。
 仕事はなく、毎日がただ過ぎていくだけだった。独りで酒ばかり飲んでいた。独りで酔いつぶれ、独り、ベッドに寝転がった。何をするにも物憂かった。夢も希望もない。
 俺はZ市に住んでいる。東には海がある。

 6月。俺は海に繰り出すことにした。