「もしもし? 俺に話って何だ?」

ソファに座り直した亮平は苛立って電話に出ている。だけど亮平はどうしてあんなに喧嘩腰に話すのだろう? 心配になった私は傍で見守ることにした。そんな私をチラリと亮平は見ると、再び電話に向き直った。

「え? 何で鈴音に構うかって? そんな事は決まってるだろう? 俺は幼馴染だからだ。言っておくけどな、俺は変な男から鈴音を守ってやる義務があるんだよ」

え? 何、それ。義務? 義務って何? ひょっとしてお姉ちゃんに頼まれていたとか?

「はぁ? 何だって? お前にそんな事言われる筋合いは無い! 女と付き合いたいなら他を当たれよ! 兎に角鈴音は駄目だ! また他の男に苦しめられる姿は見たくないんだよ! ……何、初詣? ああ……残念だったな。もう俺達と行くことに決まってるんだ。鈴音を誘ったって無駄だからな」

ちょ、ちょっと待って! 皆で初詣行く約束なんてしてないけどっ!?
これではまるで喧嘩だ。このまま黙って放置しておくわけにはいかなかった。

「ねぇ、亮平! スマホ返してよ!」

「ば、馬鹿! 今電話中だろっ!」

亮平は私の電話を返そうとしない。身をよじって私の伸ばして来た腕をよけてしまった。

「あ!」

ソファに倒れそうになり、咄嗟に向きを変えて慌てて亮平の袖を掴んだ。

「うわぁっ!?」

亮平も私の予想外の行動に驚いたのか、後ろ向きにソファに倒れた私の上に倒れ込んでしまった。

ドサッ!

うう……お、重い……。

亮平の身体が私の上に乗っている。

「りょ、亮平! 重いからどいってってばっ!」

「ん?」

至近距離で亮平と目が合う。

「って~……うわああぉっ!?」

亮平は変な声を上げて私から飛び退いた拍子にスマホを落とした。咄嗟にスマホを取るとすぐに電話に出た。

「もしもし!?」

『あ! 加藤さんっ! 何があったんだ? 今の騒ぎは!?』

「ううん、何でもない。亮平からスマホを取り返しただけだから」

「お、おい! まだ話は済んでないぞ!」

背後では亮平が喚いている。もう~っ! うるさい!

「ごめんね。騒がしくて。それじゃまた来年ね! 良いお年をっ!」

『あ! ま、待って! 加藤さ……』

プツ!

私は申し訳ない気持ちで井上君からの電話を切ってしまった。……後で謝罪のメール打っておこう……。

「おい……鈴音、どういうつもりだよ」

背後からは亮平の恨めしそうな声が聞こえている。

「は? どういうつもり? それはこっちの台詞だよ! どうしてあんな喧嘩腰に話すの?そ れに一緒に初詣なんて聞いていないよ!」

すると……。

「あら? 鈴音ちゃん。一緒に初詣行かないの?」

お姉ちゃんがリビングに入って来た。手にはレジ袋がぶら下がっている。

「あ、お姉ちゃん。ひょっとして今帰って来たの?」

「うん、そうよ。皆で後でスイーツ食べようかと思ってコンビニに1人で寄って来たの。鈴音ちゃん、カスタードプリン好きだったでしょう?」

「う、うん……」

返事をしながら亮平を恨めしそうに見た。全く……お姉ちゃんとコンビニまで行ってくれていたらこんな事にはならなかったのに。
すると亮平が私の視線に気づいたのか、口をとがらせる。

「何だよ、その恨めしそうな目は…」

「だって……! あんな態度で電話に出て……!」

「もとはと言えばあの男から俺に電話代われって言って来たんだろ?」

「それで……井上くんは何て言ってたの?」

「別に」

「別にって、そんな……っ!」

するとお姉ちゃんが笑みを浮かべる。

「あらあら、相変わらず2人は仲がいいわね」

まずい! お姉ちゃんに誤解されてしまう!

「そんな事無いよ、普通だから。あ……えっと、私ちょっと買い物に行ってくる!」

「え? おい! 鈴音っ!」

亮平の声が追っかけてきたけど、無視してリビングに置いておいたトートバックをもってコート掛けから上着を取ると、急いで玄関へ向かった。

「鈴音ちゃん、待って」

玄関に行くとお姉ちゃんが追いかけてきた。

「何?」

「あのね、帰りにおミカン買ってきてくれる?」

「あ、うん。それじゃ行ってくるね」

「おい! 鈴音!」

リビングではまだ亮平が何か言ってるけど……。

「行ってきます!」

無視して靴を履くと私は玄関を出た――