亮平はハンバーグステーキセット、わたしはグラタンとサラダのセットにした。

注文を終えた後、亮平が早速直人さんの事を聞いてきた。

「どうだ? あれから川口から何か連絡はあったか?」

「ううん、何も無いよ。だって私達はもう終わったんだから」

そう、もう直人さんから私に連絡が来ることは……二度と無い。

「クッソ……!あ いつ、なんて嫌な奴なんだ! 最低だっ!」

亮平は悔しそうだ。

「やめて、そんな言い方しないで」

「だって、あいつはお前を捨てて金持ちの女と結婚するんだぞ!?」

「やめて! 本当にそんなんじゃないんだから!」

思わず強い口調で言い返してしまい、亮平が唖然とした顔で私を見た。

「鈴音……お前……」

「あ、ご、ごめんね。きつい言い方してしまって……」

「い、いや。俺も悪かった。だけどそんな風にアイツをかばうなんて、何かわけがあるのか?」

「それは…」

言いかけた時、店員の男性が料理を持って現れた。

「お待たせいたしました」

そして私達の前に熱々の出来たて料理を置いていく。

「ごゆっくりどうぞ」

店員の男性は去って行くと、亮平は早速フォークを握りしめた。

「よし、料理も来たことだし、まずは食べてからにしよう。話はその後だ」

「うん、そうだね……」

私もフォークを手に取ると頷いた。

「「頂きます」」


2人で声を揃えて言うと食事を開始した。


「美味いな! このハンバーグ!」

亮平が嬉しそうに食べている。

「亮平は子供の頃からハンバーグ好きだったもんね」

「そうだな。小学生の頃は週に1度はハンバーグだったし」

「おばさんは料理得意だものね。私もおばさんの作ったハンバーグ好きだったよ」

「ならさ……また俺の家に飯、食いに来いよ」

「亮平……」

「母さんも父さんも鈴音を心配している。あれ以来一度も鈴音は家に来ていないだろう?」

私は黙ってグラタンを食べる。ずっと直人さんと過ごしていたからお姉ちゃんとも亮平とも、おじさんやおばさんとも疎遠になっていた。

「鈴音、俺は……お前が望めば、ずっと側にいるぞ?」

「え……?」

亮平が意味深な事を言う。一体どういう意味だろう? 亮平はお姉ちゃんの恋人なのに? 

「そうだね。亮平はお姉ちゃんと結婚すれば、私達の関係は幼馴染から親戚関係になるんだものね。私達が離れることは無いね」

「鈴音……」

「そうだ。お姉ちゃんとの仲は最近どう?」

「この間久しぶりに2人で映画を観に行ってきたよ。リハビリの一環でな」

「へえ〜何の映画観たの?」

「それがさ、ホラー映画だったんだよ。まさか忍からホラー映画を観たいって言い出すとは思わなかったな」

「え? 亮平は知らなかったの? お姉ちゃんホラー映画大好きだよ?」

「マジか? 俺はてっきり忍は恋愛映画が好きだと思っていたけどな……。むしろお前の方がホラー映画好きそうに見えるけどな」

「あ、酷い事言うな〜。こう見えても私は恋愛映画好きだよ? 特に洋画の恋愛映画が好きかな」

「なら今度俺と一緒に恋愛映画を観に行くか?」

「う〜ん……やめておくよ。お姉ちゃんに悪いからね」

私は最後の一口のグラタンを口に入れた。

「そうか……」

「うん。でも、ありがとう」

「何が?」

「私を元気づけてくれるために言ったんでしょう? その気持だけでも嬉しいよ」

「まあな」

亮平は何処か悲しげな笑みを浮かべた――