今日は遅番だった。大田先輩や女性先輩達と店のシャッターを全て閉め終えた。
「ではお疲れ様でした」
私は2人の女性先輩に挨拶した。
「ええ、お疲れ様」
「本当にご飯一緒に食べて帰らないの?」
食事に誘われていたけれも、食欲なんか全く無かったから。
「はい、今夜はちょっと疲れているので……すみません」
女性先輩達にお辞儀して足早に歩いていると、背後から声をかけられた。
「加藤さん」
振り向くと太田先輩だった。
「あ、先輩」
「駅まで一緒に帰ろうか?」
「は、はい…」
本当は1人きりになりたかったけど、先輩の誘いなら断るわけにはいかない。
何か聞かれるんじゃないかな……。そんなふうに思っていると、案の定先輩が尋ねてきた。
「加藤さん、何だかここ数日随分元気が無かったけど、何かあった?」
まだ直人さんの事を誰かに話すのは辛かった。涙が出てきそうになるから。
「いえ、別に何もありませんけど?」
けれど先輩は納得してくれない。
「う〜ん……そうかなぁ? 俺には元気があるように見えないけど……」
「気のせいですよ。私は何もいつもと変わりませんから」
大田先輩の方を見上げて口を開いたその時、不意に前方から声をかけられた。
「失礼ですけど、貴女は加藤鈴音さんね?」
「え?」
突然話しかけられて、正面に立っていた女性を見て自分の顔色が変わるのを感じた。
「あ、貴女は……」
自分の声が震えているのが分かった。だって目の前にいるのは川口さんと一緒に写っていた女性だったから。
「どうしたんだ? 加藤さん」
一緒にいた大田先輩が心配そうに声をかけてきた。
「ふ〜ん……私を見てそんなに驚くなんて……やっぱり貴女私の事知ってるのね。それにしても……」
女性はチラリと太田先輩を見る。
「直人と別れたばかりなのに、もう次の男を見つけていたのね?」
女性は私をどこか軽蔑するような目でフッと笑った。酷く失礼な事を言われているのは分かっていたけれども、女性の口から出会ってまだ間もないはずなのに『直人』と、まるで長年交際してきたような呼び方をしている事に胸がズキリと傷んだ。私が黙っているのを不快に感じたのだろう。
「何よ、やっぱり図星だったのね。この事直人に報告しておくわ」
その言葉に驚いた。
「そんな、違います!」
いやだ、直人さんとは別れてしまったけど、誤解されたくなかった。すると太田先輩が話に入ってきた。
「君、誰かは知らないがこの女性を侮辱するのはやめてくれないか? 俺はこの女性と同じ会社の人間で彼女は後輩だ。憶測で物を言うなんて失礼だろう?」
言い方は丁寧だったけど、その話し方は鋭かった。
「……っ!」
女性は一瞬鋭い顔つきで大田先輩を睨みつけたが私に向き直った。
「話があるのよ。ちょっと付き合ってくれるかしら? まさか断るつもりじゃないわよね? 貴女だって私と話がしたいんじゃないの?」
それは有無を言わさない強い物言いだった。
「加藤さん……」
太田先輩が心配そうに私を見ている。本当はすぐにでもこの場から逃げたい。だけどそんな事をしてもきっとまたこの女性は私の前に現れるだろう……そんな予感がした。
「分かりました……お話伺います」
「そう、素直に応じてくれて助かるわ」
女性はにっこり笑った。
「え? 加藤さん?本 当にいいのか?」
太田先輩が声をかけてくる。
「すみません、先輩。どうぞお先にお帰り下さい。お疲れ様でした」
私は頭を下げた。
「あ、ああ……それじゃまた明日」
「はい、また明日」
太田先輩は何度かこちらを振り返りながら駅へ向かって歩いて行く。その様子をじっと見つめていた女性が私に視線を向けた。
「やっぱり貴女、あの男性と出来てるんじゃないの?」
「違います。あの人はただの会社の先輩ですから」
そこだけは誤解されたくなかったので毅然とした態度をとった。
「そう? でも…まぁいいわ。付いてきて頂戴」
女性は私に背を向けて歩き出し、無言で彼女の後をついていった――
「ではお疲れ様でした」
私は2人の女性先輩に挨拶した。
「ええ、お疲れ様」
「本当にご飯一緒に食べて帰らないの?」
食事に誘われていたけれも、食欲なんか全く無かったから。
「はい、今夜はちょっと疲れているので……すみません」
女性先輩達にお辞儀して足早に歩いていると、背後から声をかけられた。
「加藤さん」
振り向くと太田先輩だった。
「あ、先輩」
「駅まで一緒に帰ろうか?」
「は、はい…」
本当は1人きりになりたかったけど、先輩の誘いなら断るわけにはいかない。
何か聞かれるんじゃないかな……。そんなふうに思っていると、案の定先輩が尋ねてきた。
「加藤さん、何だかここ数日随分元気が無かったけど、何かあった?」
まだ直人さんの事を誰かに話すのは辛かった。涙が出てきそうになるから。
「いえ、別に何もありませんけど?」
けれど先輩は納得してくれない。
「う〜ん……そうかなぁ? 俺には元気があるように見えないけど……」
「気のせいですよ。私は何もいつもと変わりませんから」
大田先輩の方を見上げて口を開いたその時、不意に前方から声をかけられた。
「失礼ですけど、貴女は加藤鈴音さんね?」
「え?」
突然話しかけられて、正面に立っていた女性を見て自分の顔色が変わるのを感じた。
「あ、貴女は……」
自分の声が震えているのが分かった。だって目の前にいるのは川口さんと一緒に写っていた女性だったから。
「どうしたんだ? 加藤さん」
一緒にいた大田先輩が心配そうに声をかけてきた。
「ふ〜ん……私を見てそんなに驚くなんて……やっぱり貴女私の事知ってるのね。それにしても……」
女性はチラリと太田先輩を見る。
「直人と別れたばかりなのに、もう次の男を見つけていたのね?」
女性は私をどこか軽蔑するような目でフッと笑った。酷く失礼な事を言われているのは分かっていたけれども、女性の口から出会ってまだ間もないはずなのに『直人』と、まるで長年交際してきたような呼び方をしている事に胸がズキリと傷んだ。私が黙っているのを不快に感じたのだろう。
「何よ、やっぱり図星だったのね。この事直人に報告しておくわ」
その言葉に驚いた。
「そんな、違います!」
いやだ、直人さんとは別れてしまったけど、誤解されたくなかった。すると太田先輩が話に入ってきた。
「君、誰かは知らないがこの女性を侮辱するのはやめてくれないか? 俺はこの女性と同じ会社の人間で彼女は後輩だ。憶測で物を言うなんて失礼だろう?」
言い方は丁寧だったけど、その話し方は鋭かった。
「……っ!」
女性は一瞬鋭い顔つきで大田先輩を睨みつけたが私に向き直った。
「話があるのよ。ちょっと付き合ってくれるかしら? まさか断るつもりじゃないわよね? 貴女だって私と話がしたいんじゃないの?」
それは有無を言わさない強い物言いだった。
「加藤さん……」
太田先輩が心配そうに私を見ている。本当はすぐにでもこの場から逃げたい。だけどそんな事をしてもきっとまたこの女性は私の前に現れるだろう……そんな予感がした。
「分かりました……お話伺います」
「そう、素直に応じてくれて助かるわ」
女性はにっこり笑った。
「え? 加藤さん?本 当にいいのか?」
太田先輩が声をかけてくる。
「すみません、先輩。どうぞお先にお帰り下さい。お疲れ様でした」
私は頭を下げた。
「あ、ああ……それじゃまた明日」
「はい、また明日」
太田先輩は何度かこちらを振り返りながら駅へ向かって歩いて行く。その様子をじっと見つめていた女性が私に視線を向けた。
「やっぱり貴女、あの男性と出来てるんじゃないの?」
「違います。あの人はただの会社の先輩ですから」
そこだけは誤解されたくなかったので毅然とした態度をとった。
「そう? でも…まぁいいわ。付いてきて頂戴」
女性は私に背を向けて歩き出し、無言で彼女の後をついていった――



