1月2日という事もあってフードコートは人で混雑していた。しかも驚くべきことに大半がカップルで占めていた。やっぱりこういう場所はカップルで来る場所なのかな…。その時、私の頭にぼんやりと亮平の顔が頭に浮かんだ。いくら何でも少し冷たい態度取っちゃたかな。だけど私はお姉ちゃんにこれ以上嫌われたくないんだもの。出来れば和解だってしたい。もう一度昔のように戻りたいのに…。
その時―

「加藤さん!こっちこっち!ほら、席見つけたよ!」

空いている席を探していた川口さんが大きな声で呼びかけ、手を振っている。そうだった。今私は川口さんと一緒に遊びに来てるんだから亮平の事は忘れて集中しなくちゃ。人込みをかき分け、何とか川口さんがいる場所までたどり着いた。そこはフードコートのちょうど中央部分の場所の席で丸テーブルに2人掛けの席になっている。

「すごいね…川口さん。よくこんなに混んでいるのに席を見つける事出来たね?」

感心したように言うと、川口さんは照れたように笑った。

「それは一生懸命探したからね~。どう?すごい?」

「うん、すごすごい。だって見て、あんなに大勢の人が席の場所取れなくて、うろうろしてるのに…」

見るとあちこちでカップル同士が席を探し回っている姿があった。

「それじゃ、彼らの為にも早めに食べて場所を移動しよう」

川口さんの言う事も尤もだ。

「加藤さん、先にメニュー選んできていいよ」

「え?そんな‥いいよ、私は後で。だってこの席を確保してくれたのは川口さんだから私の事は気にしないで先に選んできて?」

「大丈夫だって、俺は男だし…職業がら、食べるのは早いんだ。だから先に行ってきなよ」

あまりにも勧められるのを無下に断るのも帰って失礼かと思った私はお言葉に甘えて先に選んでくることにした。

「ごめんね。なるべく早めに選んでくるから…」

お財布を持って立ちあがると売り場に向かった。



「う~ん…どれにしようかな…」

ラーメン屋さんや、うどん屋さん、カレー屋さんにハンバーガー屋さん…。

「うん、やっぱり無難なところでハンバーガーかな?」

そして私はベーシックなチーズバーガーにポテト、サラダ、ドリンクのセットを注文すると出来上がりを待った。



「お待たせ~。ごめんね、待った?」

トレーの上にハンバーガーセットを乗せて席へ戻ると、川口さんが険しい顔でスマホの画面を眺めていて、私が声を掛けたことに気づいていない様子だった。

「川口さん?」

すると、やっと川口さんは顔を上げて私が目の前に立っている事に気が付いた。

「あ、あれ?ごめん。もう戻ってたんだね?」

「うん。お待たせ、どうぞ、お昼買ってきて」

「あのさ、先食べてていいからね?冷めると味が落ちちゃうから」

「え…でも…」

「いいからいいから。それじゃ買ってくるから」

川口さんはスマホをテーブルの上に残し、財布をジャケットに入れると売り場へ向かって行った。

「いいのかなぁ…」

でも食べてなかったら帰って気を遣わせちゃうかもしれないし…。

「いただきます」

そして包み紙をガサガサ言わせて、ハンバーガーを一口食べた時…川口さんが置いて言ったスマホが鳴り響いた。

「あ…電話だ…。川口さん、持って行かなかったからなぁ…」

その時、ふとスマホの着信相手が目に入った。

『小野寺すみれ』

「え…?ひょっとして彼女かな…?」

でも確か別れたって言ってたけど…それとも友達かな?
川口さんはまだ戻ってこない。電話は10回ほどなり続け…切れた。

「…切れちゃった」

けれどそれからまたすぐにスマホが鳴りだした。相手はまだ同じ女性からだった。

「う~ん…川口さんまだ戻ってこないのかなぁ?」

けれど、再び電話は10回ほどなり続けて切れてしまった。

「ひょっとして何か急用なのかな‥?」

するとようやく川口さんがトレーを持って席へ向かってくる姿が目に入った。

「おまたせ~…加藤さん」

川口さんのトレーの上にはラーメンと餃子が乗っていた。

「あ、中華にしたんだね」

「そう、どうしてもラーメンが食いたくなっちゃってさぁ…ってあれ?何だ
か全然減っていないな?食べてなかったの?」

「ううん、そんな事無いよ。ちゃんと食べてたよ?」

「そう‥なら、いいけど…」

そして川口さんが席に着いた時、再びスマホが鳴り響いた。

「「あ・・・。」」

相手は『小野寺すみれ』さん。だけど、川口さんは険しい顔でスマホを見つめ‥電話に出ることなく、着信を切ってしまった――