さよなら、やさしいウソつき

あれから1週間。
ユキは、由奈に挨拶しても無視されるものの、仕事でどうしても由奈と会話交わさなきゃならないときは、返事はしてくれるが
言い方に棘があるようになった。
目立った嫌がらせなどは、ないが明らかにユキを避けている。
思い当たる節と言えば、初めての企画会議でユキの企画が通った時くらいである。

あの時の由奈は、目がすごく凍り付いていた。まるで自分気に入らないかのようなあの眼差しだった。
ユキは、由奈に「どうして避けたりするんですか?」と聞こうとしても無視される。
話しかけようものなら、由奈は、すぐほかの同僚か五十嵐先輩に話しかけに行って、自分の声など聞こえないふりをしてしまう。
他の先輩社員に相談しても「そのうちまた元に戻るよ」「気にしないほうがいいよ」と言われるくらいだ。
大好きで尊敬していた先輩から急にそっけなくされたり、冷たくされて、心が折れそうなユキは、俊哉の顔が浮かぶ。
直接的な嫌がらせなどないが、相談くらいきいてほしいと思い、思い切って、電話をかけようかと悩んだ。

「もしかしたら・・・・勤務中かもしれない。」

時刻は、今、11時すぎだ。俊哉もまだ勤務中だろうと思ったユキは、12時になったら一度電話かけてみることにした。
誰にも聞かれない場所に行って電話しよう。

そう考えたのだった。

時刻は、12時。由奈は、当然ながら五十嵐と昼食食べに行ってしまった。
「(いつもなら私を誘ってくれるのに誘ってくれなくなったなぁ。)」

席は、隣なのに由奈は、ユキと一向に目線合わせなくなった。
ユキは、席を立って、誰もいない、未使用の会議室へ行った。昼ご飯は、喉が通らない。
会議室へ入ると、ユキは、俊哉の名前を押す。

1コール目、2コール目、3コール目、なかなか出ない俊哉。
やっぱり忙しいんだ。警察官は、忙しい。そんな簡単に電話出てくれるはずがないとあきらめかけた。
その時だった。

「もしもし?ユキ?」

5コール目あたりで出てくれた俊哉は、明るい声で電話に出てくれた。
嬉しくて、ユキは、思わず泣きそうになったがここは、涙をこらえることにした。
「もしもし。俊哉君・・・・」
「どうした?何があった?」
「今、電話って大丈夫なの?」
「ちょうど昼休みに入ったから大丈夫だよ。何か嫌なことあった?」

ユキは、俊哉の声に安心して、涙出そうになったが、頑張ってこの間の出来事を一から話した。
俊哉は、「うん。うん。」「そうだったんだ」「辛かったね。」など優しく相槌を打ってくれる。

「ユキ、よく頑張ったね。僕は、大したアドバイスできないけど、今は、その人と距離を取ってみたらどうかな?
一度、距離を置いたら、その人は、また落ち着くんじゃないかな?」
俊哉のアドバイスは、すごくもっともだった。ユキは、「ありがとう」と涙ぐんだ。

「俊哉君。ありがとう。忙しいのに話を聞いてくれて。」
「大丈夫だよ。ユキ、辛いことや悲しいことがあったらいつでも僕に話して。僕は、君だけのヒーローでいたいんだ。
ずっと」

ユキは、「ありがとう。ありがとう。俊哉」

気持ちが軽くなったような気がして、ユキは、電話を切った。少しお腹すいたので、コンビニでパンとおにぎりとお茶を買って、オフィスで食べることにした。
コンビニで買ったパン、おにぎり、お茶を持って、オフィスに戻る途中、給湯室で五十嵐と由奈の会話が耳に入った。

「ねぇ。私と付き合ってほしいの。ずっと俊介のこと大好きだったの。入社したときから」
「だから。僕には、ほかに好きな人がいるからダメだって言ってるだろう。この話、終わりにしてくれ」

”俊介”、確か五十嵐の下の名前だったと思い出したユキは、由奈の告白を目撃してしまった。
五十嵐には、ほかに好きな人がいると知った時、ユキは、心の中で「(俊哉君と付き合って本当によかったかもしれない。
五十嵐先輩と付き合える人、幸せだろうな)」と思って、素早く立ち去った。

オフィスで昼ご飯を食べていると、井村と保坂が帰ってきた。
「あれ?ユキちゃん、どこに行ってたの?」
「私たちずっと探してて、心配してたんだよ」

ユキは、「すみません。具合悪くてトイレにこもってました。」と小さくごまかした。
二人は「大丈夫?」と心配してくれたが、ユキは、笑って「大丈夫です!」と元気に言った。


その後、由奈が帰ってきたが、相変わらず私を無視してるが、俊哉に言われた通り、もう気にしないことにした。
ユキは、「お疲れ様です。」とだけ言った。返事返ってこなくたっていい。先輩に礼儀としてあいさつはきちんとするだけだと
自分に言い聞かせた。

定時になり、ユキは、帰ろうとしたところ、保坂と井村が話しかけてきた。
「ねぇ。ユキちゃん。今日、晩御飯一緒に食べよう。」
「ちょっと由奈のことで黒い噂を聞いちゃって、ユキちゃんにも教えておこうかと思ってさ。」
「は、はい・・・」

なんだろう?由奈先輩の黒い噂

ユキは、心の中で小さく疑問に思いながら、二人がよくいく居酒屋に連れてってもらった。

店内は、仕事終わりのサラリーマンやOLでにぎわっている。二人についていき、座席に座った。
店員に適当に烏龍茶とからあげとポテトなど頼んだ二人は、ユキに本題について話し始めた。

「あのね。由奈が急にユキちゃんに冷たくなった理由、わかっちゃったんだよね」
「私たちも噂で聞いた程度だから本当かどうかわからないんだけど、辛い現実になるんだけど、ごめんね。」

二人は、話しにくそうで気まずい雰囲気で話した。まず、保坂が話した。

「由奈って入社したときから五十嵐君のこと好きだったんだよね。告白をしてもずっと断られたり、
また告白する前に五十嵐先輩は違う彼女作ってたりしてたんだ。」
「それで、ユキちゃんが入社してきてから、五十嵐先輩、私たちに聞いてきたんだ。ユキちゃんって彼氏いるかどうかって。
私たちも出会ったばかりのユキちゃんに彼氏いるかわからないって言ったよ。それでもユキちゃんあきらめきれなかったんだよね。
だからやたらユキちゃんの仕事手伝ったりして、アピールしてたって。」

保坂に続いて井村も話し始めた。ユキは、開いた口がふさがらないという思いで絶句した。

「それでこの前のプレゼンでユキちゃんの企画通ったとき、五十嵐先輩すごい褒めてたからそれがとどめの出来事になったってわけ」
「じゃあ・・・・私が由奈先輩の片思いの相手を・・・・」
「ユキちゃんは、悪くないよ。由奈も由奈でホスト狂いじゃないかって噂もあるんだ。」

あの仕事ができて優しい由奈先輩が…。信じられない真実を聞いて今にも倒れそうなユキ。

「ごめんね。まだほんの噂だからわからないよ。ユキちゃんに優しくしてたのは、表面の仮面じゃないかって疑ったりもしてるんだけど、確証がないから・・・」

保坂と井村は、ユキに何度も謝り、烏龍茶を飲みながら、おつまみをつまんで、それから楽しい話題を話した。

「それじゃあ、気を付けて帰ってね!」
「ユキちゃん。私たちはずっと味方でいるからね!」

「ありがとうございます!おやすみなさい」

居酒屋からすぐ右に出て信号を渡って3人は別れた。いろんな事実が出てきて、頭の整理が追い付かない。
まさか自分のせいだと思わなかったユキは、「ユキちゃんのせいじゃないよ」と言ってくれた二人の言葉をお守りのように
胸に抱いて帰路についたのだった。

自宅へ帰ったユキは、ずっとスマホ見てなかったため、画面を開くと由奈先輩からのメッセージが来てるのに気づいた。
開くと背筋が凍るような文字があった。


<絶対、許さないから>