さよなら、やさしいウソつき


午前中の仕事を終えたユキは、由奈からランチのお誘いがあるかと思ったが、今日はなぜか違った。
「ごめん。ユキちゃん。今日は、五十嵐君と大事な仕事の話をしながらご飯食べるから、一緒に食べれないの。」
「そう・・・ですか。わかりました。」
「また明日、一緒に食べよう!」

そう言って、由奈は、五十嵐と一緒にオフィスを出て行った。
ユキは、ほかの先輩と一緒にコンビニでご飯を買って、屋上で食べることにしたのだった。
同僚って言っても同じ女性社員がいない。いるとすれば先輩の女性社員しかいないのだった。
でもユキのどこかでなぜかモヤモヤが残ったのだった。

「由奈って五十嵐君のこと好きだったりするかな?」
「絶対そうだよ。お似合いだよね。ねー。ユキちゃん」
「え、、、。うん。」

同じ部署で2年先輩の保坂先輩と井村先輩は、二人ともとても優しく、ユキのことも可愛がってる先輩社員でもある。

「どうしたの?なんだか具合悪そうだよ。」
「午後から早退させてもらいなよ。」
「だ、だ、大丈夫です。私なら大丈夫です。」

大丈夫。大丈夫と装ってはいるが、これが大丈夫ではない。
内心は、由奈と五十嵐が付き合ったりするとどこかモヤモヤする自分がいるのだ。
やっぱり中島の告白を断って五十嵐と付き合えばよかったのかとか告白してもフラれたりしたらどうすればいいのかとか
悩みが尽きない。

「ユキちゃん。大丈夫じゃないよね?」
保坂先輩は、勘が鋭い。ユキの言動を見て聞いて、元気じゃないことを見抜いていたのだ。
「今日は、ご飯食べたら帰って休んだ方がいいよ。そんな具合悪そうな顔、仕事に支障出るよ。」
「でも、ご迷惑おかけするわけにいかないので・・・」
「ユキちゃん、保坂さんの言う通りよ。仕事なら私たちでカバーしてあげるから。」

先輩方の優しい言葉に甘えて、ユキは、早退させてもらうことにした。部長からも「お大事に。ゆっくり休みなさい」と言ってもらえた。
荷物をまとめて、退社してると、会社の外で五十嵐と由奈がいた。何やら話していて、ユキには、気づいていない。

チクリ・・・・

胸が痛む音がした。ユキは、その場を早く離れようと早歩きで自宅へと急いだ。
彼氏ができたのにこの気持ちは、なんなのかわからない。
その気持ちの正体に気づくまで、きっと時間がかかる。

自宅マンションへ帰ると、ベッドに寝転んだ。スマホを見ると、メッセージは来てない。
中島は、忙しい。忙しいのに「会いたい」とか「話を聞いてほしい」とかわがまま言えない。

そんなこんなで気づいたら夕方18時になってた。いつの間にか寝ていた。
スマホも不在着信があった。<中島俊哉>という名前があった。
嬉しくなったユキは、思わずかけなおした。

6コール目で出てくれた彼は「もしもし?」と優しい声がした。

「あ、あの。電話があったらかけなおしたの。ごめんね。気づかなくて」
「全然。大丈夫。ちょっとユキの声、聞きたくなっただけなんだ。」
中島の声は、とても落ち着く。昼間の変な気持ちが嘘みたいに浄化されていくようだった。

「お仕事、慣れてきた?」
「うん。まぁ・・・。でも具合悪くなって、早退してきちゃった。」
「大丈夫?風邪?」
「そんな感じかな・・・」

中島は、何か考え込んでる感じがした。そして、言葉をつづけた。

「あのさ。僕、今からパトロールなんだけど、今からユキん家行っていい?心配だから、ちょっと栄養のあるドリンクとか
食べ物買ってくるから待ってて。」
「そんな!仕事中にそんなことしたら怒られるよ。」
「怒られたっていい。彼女、具合悪くてしんどいのになかなかそばにいられないからせめての想いを届けさせて。上司に怒られるよりも今は、ユキの顔が見たい。だから、待ってて」

そう言って中島は、電話を切った。

今から彼が来る。メイク落とさないと。髪も綺麗にしないと。パジャマにも着替えなきゃ。
そうこう考えて行動してると30分後に電話が来た。

「もしもし?今、着いたよ。何階の何号室?」
「えっと。3階の305号室だよ。」
「わかった。すぐ行く」

ユキは、緊張しながら玄関とリビングを行ったり来たりの繰り返しをしてた。

ピンポーン

インターホンが鳴り、ユキは「はーーい」と言って、モニターを確認する。
制服姿の中島がいた。中島だと確認すると、ユキは、玄関の鍵を開けた。

「夜分遅くにごめんね。これ、一応、リンゴにヨーグルト、スポーツドリンクとレンチンしてすぐ食べられるうどんだよ。」
「ありがとう。お代払おうか?」
「いいよ(笑)僕の気持ちなんだからさ。ユキが元気になってくれたらそれでいいよ。」

中島は、ユキにあるお願いする。

「これから恋人同士なんだからさ、俊哉って呼んでほしい。くん付けでも構わないから。」
「うん。。。まだ、慣れないなぁ。」
「ユキは、かわいいなぁ。慣れるまで待ってるよ♪中島君って呼んだら、君のハート、逮捕するよ」

顔が真っ赤になったユキは「頑張るから~!」と言った。

「あはは。ユキ、早く元気になってね。君の可愛い笑顔、早く見たいから。」
ユキの額に軽く口づけた中島は、パトロールの途中のため、近くに止めてあるパトカーに戻って行った。
明日、ご近所さんの間で「昨日、パトカー来てたけど、何かあったのかしら?」とか噂にならないことを願ったユキだった。

翌朝、出社すると、由奈がいつもと変わらぬ笑顔であいさつをした。
「おはようございます。由奈先輩」
「おはよう。昨日は、ごめんね。」
「いいえ。先輩も大変ですね。私も早く仕事たくさんできるようにならなきゃ」
「焦ることはないよ。」

”昨日、五十嵐先輩と由奈先輩がいるところ見ました。”

なんて口が裂けても言えるわけがない。
この一言で由奈とユキの関係が崩れるかと思うと、ユキは、恐ろしくて言えなかった。

「今日、企画発表の日だね。」
「そうですね・・・。私なんかきっと選ばれるなんてまだまだ先の話ですよ。」

そして、部長からプランの企画発表があった。選ばれたのは、なんと


宮島ユキだった。

「宮島くん。おめでとう。新人ながら素晴らしいプランだ。この調子で頑張ってくれ」
部長からの誉め言葉や社員の拍手に思わず、照れ臭かったユキだが、一人だけ納得いかない顔で
ユキを冷たい目で見ていた人物がいた。

それは、斎藤由奈だった。

彼女だけ自分を冷たい目で見つめながら拍手もまばらだった。
きっと自分が選ばれるはずだと自信に満ちてたに違いない。

「宮島さん。おめでとう。新人なのにすごいよ。お祝いにランチ奢ってあげるよ」
昼休みに五十嵐からランチのお誘いがきたのだが
「五十嵐君。今日も私とランチに行きましょ。今日は、イタリアンにしよう。」
「え。でも。今日、3人でイタリアンに行こうよ。ほら、宮島さんのお祝い兼ねてさ」
「そんなことどうでもいいの。いいから。私と二人きりで行きましょう。」

”二人きり”を強調した言い方、ユキを冷たく突き放す言い方
ユキは、また胸がチクリと痛んだ。

あの一件以来、ユキは、由奈から冷たく突き放されるようになったのだった。

「さっきの由奈の態度、ひどくない?」
「わかる!ユキちゃんが採用されてから明らかに嫉妬心が丸見えだった」

保坂と井村は、先ほどの由奈の態度に腹を立てていた。
ユキは、しょんぼりと落ち込んでいた。入社以来、あんなに優しくて、面倒見てくれて、ごはんもごちそうしてくれ、相談まで乗ってくれたのになぜ?と疑問が浮かぶばかりだ。

ユキは、ずっとずっと、「なぜ由奈は冷たくなったのか」という疑問と闘い続けた。