さよなら、やさしいウソつき

仕事にもだいぶ慣れてきたころ、ユキは、ポストにハガキがあるのを確認して、受け取った。
ハガキには『同窓会のお知らせ」と書いてあった。
「同窓会?幹事は・・・前田寿葉?」
誰だったっけ~~?とユキは、思い出しながら自分の部屋の前まで歩く。

「そうだ!高校1年生の時だけ同じクラスだった寿葉だ。」
自分で納得させながら、同窓会のお知らせ内容を読み進める。
「”9月10日夕方18時ごろに居酒屋たまやの宴会場にて開催します。欠席・出席のお知らせは、
8月30日までにお願いします。”か。」

高校時代、自分は、地味で特に目立たなかった存在だったのでほとんどのクラスメイトは
覚えてないだろうと思う。
でも送ってきたということは、寿葉は、覚えているのか卒業生一覧にあるのを見たとおりに送ったのか
わからない。
寿葉とは、そんなに仲良くなかった記憶がある。
あいさつだけ交わして、あとはそんなに話してない。

「予定もないし出席するか・・・」

ユキは、出席と丸をして、後日、ポストへ投函したのだった。
これが運命の歯車が回るきっかけとなるなんてユキは、思いもしなかった。

同窓会まであと1週間と迫って来てる中、ユキは、仕事も覚え、資料作りもうまくなり、上司からもだいぶ
褒められる回数も増えた。
「ユキちゃん。最近、すごい仕事できるようになったね。」
「由奈先輩!はい。先輩のおかげでできるようになりました。」
「うふふ。私もかわいい後輩が仕事できるようになって、嬉しいよ。」

由奈は、「ランチおごってあげるからまたあのお店にいきましょ」と言ってくれた。
ユキは、仕事がんばろうと気合をいれたのだった。

帰宅途中、ユキは、後ろから誰かにつけられてる気配がした。歩けば後ろの足音も歩く
止まれば後ろの足音も止まる。
怖くなったユキは、後ろ振り返るが誰もいないため、なおさら怖くなった。
走って逃げようとしたが、後ろも走ったため、怖くなった。怖くなって「誰か」と助けを求める。

人気の少ない住宅街のため、誰も助けに来ない。
どうしよう。怖い。誰か。

と内心焦った時、「どうしましたか?」と男の人の声がした。
顔を上げると、若い警察官だった。

「後ろから・・・誰かにつけられてるんです。怖くて」
「わかった。怖かったね。もう大丈夫だ。キミは、パトカーに乗って隠れてて」

警察官の言う通りにパトカーに身を潜めさせてもらった。
数十分後、あの警官が戻ってきた。

「犯人、見つけたよ。君に一目ぼれして後を追いかけたそうだ。今回は、口頭注意だけで終わらせてしまったけど、
次やったら口頭注意だけじゃ終わらないよって言ったよ。警察署にもヤツの名前と住所とか記録するから大丈夫だよ。」
「そう・・・ですか。ありがとうございます。」

おまわりさんがどうやら見つけて、口頭注意してくれたようだ。
とりあえず一安心したユキだった。

「もしかして、人違いだったらごめん。宮島さん?覚えてる?中島俊哉。3年間同じクラスだった」
「中島・・・俊哉?もしかして中島君?!」
「やっぱり。なんか懐かしい顔だなぁって思ってた。こんなに遅くまで仕事してたんだね。お疲れ様」
「知らなかった。中島君が警察官になってたなんて」
「まだ交番勤務だけどね。たまたま夜のパトロールでここを通ったら、焦って走ってる宮島さんいたから。」

偶然にもユキは、高校のクラスメイトでしかも1番人気者だった中島俊哉と再会をした。
やっぱり彼は、すごくカッコよかった。
警察官の制服がすごく似合う。

「宮島さん。今夜、遅いし、自宅まで送るよ。」
「そんな悪いよ」
「大丈夫。住所わかっても変なことしないから(笑)」
「わかった。お願いしようかな」

ユキは、俊哉が運転するパトカーで自宅まで送ってもらった。
運転する彼の姿は、高校時代よりはるかにカッコよくて、好きになりそうだった。

彼女、いるんだろうなぁ~。いや、もう結婚して子供もいたりするんだろうなぁ。

と頭の中で考えが巡っていた。

「じゃあ、気を付けてね。おやすみ。」
「ありがとう。中島君も体調に気を付けてお仕事頑張ってね」

お互いに挨拶を交わしてユキは、マンションの部屋まで帰った。

「まさか、中島君が警察官だったなんて」

高校時代の彼は、すごく真面目で将来は、誰かの役にたつことがしたいと話してたことを
頭の隅で思い出した。
こんな地味でなんのとりえもない私のことを覚えていてくれたことがまず、一番驚いた。

「なんで覚えていてくれたんだろう」

一番肝心なことを聞くのを忘れたユキ。ストーカーの恐怖と彼との再会のドキドキが勝って
”なんで自分のことを覚えてくれていたのか”と聞くのを忘れたのだ。

「まぁ、またご縁があったら聞けばいいよね。偶然だったかもしれないし」

そういって、ご飯を食べてお風呂に入って寝床についたのだった。


あれから1週間、同窓会の日がやってきた。
仕事も定時に終えたユキは、由奈からたまには飲みに行こうと誘われたが、同窓会があるからと
丁重に断った。

居酒屋たまやに着いたとき、もう数名の人が二階で会話交わしてるのが聞こえた。
店員に「同窓会出席する者です。」と伝えて、二階に通してくれた。

「失礼しまーす。」

ユキの声に反応した数名が「宮島?」「久しぶり~!」「ユキ!元気だった?」と声をかけてくれた。
覚えていてくれたことに嬉しかったユキは、「久しぶり」と言った。
幹事の沖田くんは、高校時代にクラスで1番のムードメーカーで誰にでも気さくに優しく接することができる子だった。
その沖田くんに同窓会出席費用を渡した。

「そういや中島は~?」
「警官の仕事を終えてすぐ来るってメッセージ来たんだけどなぁ~」

中島君、出席するんだ。

とユキは、淡い期待を抱いた。また彼に会えることに密かに楽しみにした。

「ユキ~?どうしたの?顔が真っ赤だよ」

花か仕掛けてきたのは、ユキと同級生だった生田いおり。ユキとは、高校時代通学路が一緒ということで
仲良くなって、親友になった。
「なんでもないよ。いおりは、何してるの?」
「私?私は、教師。小学校教師。今は、1年生の担任だよ~。」

いおりは、昔から面倒見もよく子供好きということで保育士になろうとしたらしいが、保育士試験で落ちたため
教員免許とって、小学校教師になったのだ。

「そうなんだ。すごいね。私なんか広告代理店だよ。」
「そっちもいいじゃない。ねぇねぇ!イケメン社員いる?先輩は、優しい?」
「イケメン・・・かどうかわからないけど、五十嵐先輩って人は、ちょっといいかな。先輩は、優しいよ。
いつもおいしいごはん奢ってもらってる」

いおりは、「いいなぁ~。」と羨ましがってた。
ユキは、早く中島俊哉に会いたくて心の中でうずうずしてた。

みんなと喋ってること10分、「ごめん!遅れた」「おせーよ。中島」という声が聞こえ、顔を上げた。
中島君だ。私服姿の彼は、とてもシンプルだけど、爽やかで誠実な彼にとても似合っていて、思わずときめいてしまった。

「ごめん。報告やらいろいろしてたら遅れた。同窓会で警官の服で来るわけにいかないだろう。」
「じゃあ、せめて警察手帳見せてよ。警察手帳!」

沖田が中島に警察手帳見せてほしいとせがみ、ほかの男子も女子も「見たい」と騒いだ。
「見せてあげてもいいけど、あんま騒ぐなよ。ほかの客や店員に迷惑かかるから。」
はいと見せた警察手帳にみんな興奮した。「すげー。本物だ」「カッコいい!」「まだ巡査かよ」という
いろんな声が聞こえた。

「うるせーな。これでもまだ新米なんだよ。あんま騒ぐと逮捕するぞ!」

みんな「逮捕」という言葉聞いて、一斉に静かに座った。
改めて同窓会の始まりだ。

「改めまして、同窓会始めます!みんな、かんぱーい!」

「「「「かんぱーーーーーい!」」」」

思い思いに飲んだり食べたり、喋ったりしてるとみんな酔い始めたりした。
中島は、警官という立場もありいつ呼び出しがくるかわからないため、ジュースや烏龍茶しか飲まない。

「宮島さん、久しぶり!」
中島が話しかけてきた。ユキは、ドキッとして「久しぶり」と言った。
「あれから大丈夫?」
「うん。ぜんぜん。」
中島は「よかった」と笑った。ユキは、気になってたこと聞いた。

「ねぇ、中島君って私のこと覚えていてくれたの?」
「うん。覚えてたよ。ずっとこれ話すと今、いるやつらがうるさいから連絡先、教えてくれない?」
まさかあの中島君から連絡先聞かれるなんて思わなかったユキは、顔が真っ赤になった。
ユキもお酒飲んでないが、酔ったような真っ赤な顔になった。

「もしまた何かあった時のためと言ったらヘンかもしれないけど、警察官が知り合いってだけでも安心してほしくて」
「これも変な理由だなぁ」と中島は、笑った。
ユキは「いいよ。これ、メッセージのアカウントと電話番号」とメモを渡した。
中島は「ありがとう。」

この連絡先の交換がユキの運命を大きく左右するのだった。