さよなら、やさしいウソつき

「ユキ、お昼、どこかで食べない?」
「いいね。」
「和食屋さんにしましょ。ざるそばがおいしいお店ができたってご近所さんが言ってたからそこで
食べましょ」

ユキは、喜んで賛成をした。
母がご近所さんから聞いた蕎麦屋さんは、個室でとても落ち着いた雰囲気の店だった。
そこでユキは、天ざる蕎麦。母は、ざるそば定食を注文した。

「お父さんも警察へ付き添いたいって言ってたのよ。私は、反対したのよ。ついてきたら
お父さん、絶対ストーカー男殴りに行きかねないじゃない?」
「たしかに・・・。やりそうだよね。」

二人で父のやりそうなこと、昔、そんなことあったねと話が盛り上がった。
今頃、父は、実家で昼ご飯食べてるだろうかと考えた。
基本、無口だが、子供は、きちんと見ていて、アドバイスなどきちんとくれる根は、やさしい父だ。
ただ、不器用なだけなのだ。

「私ね、お父さんに痴漢から助けてもらったことあるの。」
「そうなの?!」
「えぇ。お父さんが気づいてくれて、痴漢男を駅員さんに引き渡してくれて、私、怖くて震えてたら
「大丈夫だ」ってずっと優しく背中さすってくれて、警察官にも詳しく事情話してくれて、頼もしかった。
そこから私とお父さん付き合い始めたってわけ。」

話は、母が高校3年生、父が大学2年生くらいの話だそうだ。
正義感が強い父らしい話でユキは、ますます父が大好きになった。
そして、注文した料理が来て、二人で昼を食べ、母に自宅まで送ってもらってそこで別れた。

自宅マンションにあるポストを見ると会社からの通知が来ていた。
ユキは、嫌な予感しかしない。部屋に戻って、封筒を開けると<懲戒解雇>という文字があった。
絶句して、声が出なかった。
万引きしてないのに、たった一つの誤解がここまで大きくなるなんて、ユキは、絶望した。
懲戒解雇は、社会人にとって死刑宣告のようなものだ。

再就職がかなり厳しいというのもわかってる。
スマホが鳴った。見ると、ディスプレイに「斎藤由奈」という文字が光ってた。

ユキは、仕方なく出ると、由奈がこう言った。

「久しぶり。会社からの通知書、そろそろ来たんじゃないかと思って。」
「・・・・・・・来ましたよ。」
「そう。ざまぁ。あんたのボールペン盗んだのも私。万引きの疑いかけたのも私。全部気に入らなかったのよ。
新人のくせに企画採用されたからって調子のりやがって。ちょっと若いからってちやほやされてるあんたが大嫌いだった。
だから、地獄へ叩き落したのよ。」
「そんな。尊敬してたんですよ!」
「知らないわよ。まぁ、これからいばらの道になるけれど、せいぜい頑張ってね。一生再就職無理だから実家に帰って内職でもして地道に生きればぁ?じゃぁねぇ~。」

ユキは、電話を切った。だが、ユキのスマホに由奈との通話録音をしていた。
俊哉に由奈からもし電話かかってきた場合、通話録音するように言われてたのだ。

「(絶対に許さない!)」

ユキは、逆襲の準備をしたのだった。