ユキは、母に付き添ってもらいながら、警察署へ来た。先日のストーカー事件のことだ。
ユキの母は、警察から電話で聞いて、心臓が飛び出るくらい驚き、急いでユキの自宅へ行き
泊まりに来た。

「無事でよかった。」

母は、大粒の涙を流しながら、ユキを抱きしめた。
久ぶりに母に抱きしめられたユキは、小さな子供のように甘えた。
母親に抱きしめてもらいながら、眠りについたのは、幼稚園以来で懐かしくて安心した。
いつの時代になっても母親の存在は、偉大だなと感じたのだ。

「ユキ、怪我もなくてよかったわ。お父さんも心配してたのよ。「ストーカー野郎を一発殴らないと気が収まらん」って
言ってたのよ。」
「お父さんらしいな・・・。」
「話せそう?」
「うん」

警察署に着き、若い男性警察官が取調室へ案内してくれた。
取調室には、先日、事件の時、私に「大丈夫ですよ。」と優しく声をかけてくれたあの女性警官がいた。
「お待ちしてました。どうぞ、こちらに腰をかけてください。」

声が柔らかくて、とても心地の良い声だ。
ユキは「はい」と言って、すわった。母は、私の近くに座った。

「五十嵐俊介さんとは、どういったご関係でしたか?」
「会社の先輩と後輩という関係です。」
「先日、逮捕した五十嵐容疑者は、宮島さんに好意を抱いてて、宮島さんも自分のこと好きで両思いだと思ってたと
供述してるんですが、宮島さんは、どう思ってますか?」

ユキは、息をのんだ。好きだったのは、間違いない。
全部、正直に話す。

「好きだったことは、間違いありません。でも、五十嵐先輩・・・いえ、五十嵐容疑者には、斎藤由奈という先輩と
お付き合いしてると私は、勝手に思って、今は、中島俊哉さんとお付き合いしてます。
なので、今は、好きという感情もありません。」

女性警官は、優しく「そうですか」と言った。

「彼、中島君もよく私に話してくれるんですよ、僕にかわいい彼女ができたんだ。って頑張り屋さんで自慢の彼女なんだって
よく言ってるのよ。宮島さんは、とっても幸せ者ね。」

「はい」

ちょっと照れ臭かった。俊哉がそんな風に言ってくれてたなんて。
正直、嬉しかった。

事情聴取は、1時間くらいで終わった。ユキとユキ母は、しっかり頭を下げて、警察署を後にしたのだった。