翌日、ユキは、会社に出社すると、部長から呼び出された。
会議室まで連れていかれるほど何か悪いことでもしたのかと思い、考えるが
思い当たる節がない。
部長は、言いづらそうな顔しながら「う~ん・・・」とうなった。

「宮島さん。こんなこと言いたくは、ないのだが君、万引きをしたって本当か?」
「え?」
「昨日、斎藤さんから報告があって、文房具屋で宮島さんらしき人物がボールペンを万引きした瞬間を見たというんだが。
時系列に言えば、1週間ほど前の話だそうだ。」
「1週間前は、私、文房具屋なんて立ち寄ってません。人違いです!」

1週間前は、ちょうど友達と夕飯食べに行った日である。時間に遅れたらいけないと思い立ち寄ったりしてない。
そう訴えたのだが、部長は

「そうは言っても斎藤さんは見たと言ってるし、証拠の写真も見せられて、これどう見ても宮島さんでしょう。」
「そんな。私じゃないです!信じてください」
「すまないが、今は、何を言われても信じられないんだ。処分が決まるまで自宅で待機していなさい。
あと、この前、君の企画を採用したのだが、白紙にする。斎藤さんの案をかわりに採用する。」

ユキは、悔しさで涙いっぱいになった。部署へ戻って、荷物をまとめるとまわりからヒソヒソ話が聞こえる。
由奈は、私を見てニヤリと笑った。絶対、由奈による罠だと確信したのだが、由奈が仕組んだ証拠もつかめない。

「ユキちゃん。万引きは、よくないね~。私、見ちゃったんだよね。残念。かわいい後輩が犯罪者だなんて私、ショック」
わざとらしい演技で涙を流すふりをする由奈を見て、保坂と井村も「ホント、信じられない。」とユキを批判する。
ユキは、今は、誰に何を言っても信じてもらえないと思い、涙流しながら荷物まとめて、自宅へ帰った。

悔しい、悔しい、悔しい。

心の中で悔しさと怒りでいっぱいになったユキは、自宅へ帰っても涙が止まらなかった。
スマホを見ても誰からの心配の声は、ない。
お母さんに連絡しようかな・・・。親に心配は、かけたくない。冤罪かもしれない事件に親を悲しませるなんて
できないユキは、ますます親に言いづらくなった。

ふと俊哉がうかんだ。メッセージだけでも送ることにした。

<俊哉・・・。どうしよう・・・。万引きの疑いをかけられた。私、万引きしてないんだよ。なのに、上司から処分決まるまで自宅待機にさせられて、、、>

震える指で送信のボタンを押した。
今頃、俊哉は、勤務で忙しいに決まってる。ベッドに顔をうずめてふて寝をした。

気づいたら、夕方になってた。スマホを見れば着信履歴やメッセージがきていた。
中には、母からも来ていた。
きっと、部長が連絡したのだろう。

そう思いつつ、開くと<ユキ。あんた、万引きしたの?連絡をしてちょうだい。お父さんも心配してます。>
と書かれてた。
急いで母に電話かけた。3コール目で母が出た。

「お母さん・・・。ごめんなさい。」
「部長さんから連絡が来て、びっくりしたわ。本当なの?」
「してないよ。本当だよ。」
「わかってる。私。ユキが万引きするような子じゃないってお父さんも信じてるから。今、お父さんと二人で
弁護士さんを探してる。あなたの冤罪を晴らしてあげるから、待っててちょうだい。」
「ありがとう・・・ごめんなさい。ごめんなさい。」
「大丈夫よ。かわいい娘だもの。お母さんとお父さんが必ずあなたの無罪を証明してあげる。」

そう言って、母は、電話を切った。次のメッセージを見てみると、俊哉からだった。
<気づいたら電話してくれ。>

さっそく俊哉に連絡を入れた。5コール目で俊哉は、出てくれた。
「俊哉・・・。」
「ユキ!大丈夫か?!話だけでも詳しく聞きたいから、待っててくれ」

そう言って、俊哉は、電話を切った。
20分後、俊哉は、「マンションの下に着いたよ。」と連絡を入れてくれた。
マンションの下へ降りたユキは、俊哉の警官姿に安心してますます泣いた。
俊哉の胸は、たくましくて安心した。ユキは、子供のように泣いてても俊哉は、優しく微笑んだ。

「どうしたんだ。窃盗疑われたんだろう?被害届を出そう。それだったら俺も動ける。」
「うん・・・。うん・・・。出す。ありがとう・・・」
俊哉は、ユキを交番まで連れていき、被害届を書かせ、提出することにした。
帰りも自宅まで送った。心配だから部屋まで連れて行った。

「ユキ、話してくれて、頼ってくれてありがとう。」
「私、不安だったの。この先、どうなるかわからないし。」
「大丈夫だ。ユキの無実、親も晴らそうとしてくれてるんだろう。俺も味方だ。安心してな。」

お互い、おやすみなさいと言って、ユキは、顔を洗って、深く眠りについた。

次の朝、本来は、出勤だが、自宅待機を言い渡されたため、やることがない。
とりあえず、顔を洗って、ヨーグルトを食べた。
テレビを見てもつまらない。ベッドでごろ寝をすることにした。

気づけば、昼になってた。昼ご飯は、食べるものがないため、買いに出かけようとした時
インターホンが鳴った。
「誰だろう?」と思い、モニターで確認すると、意外過ぎる人物だった。

「ユキ。五十嵐だよ。」

五十嵐俊介だった。ユキは、驚きと恐怖でいっぱいになった。
彼に住所も何も教えてないのになぜわかったのだろう。
と不思議に思った。

「陣中見舞いだよ。部長に様子見に行くように言われて、来たんだよ。」
「そ、そうですか・・・。お気遣いありがとうございます。」

早く帰ってもらいたい。そう願ってたのだが、彼は、簡単に引き下がりそうになかった。

「ねぇ、開けてくれない?せっかくメッセージ垢も電話番号も教えたのに全然連絡くれないから、こっちから
会いに来たんだよ。」
やはり、勝手に来たんだと察したユキは、恐怖で「帰ってください。」と言ったが、五十嵐はあきらめそうになかった。

玄関をドンドン、ドンドンと叩き、「開けて」という声が聞こえる。
震える手をなんとか抑えながら、スマホを開き、110番の番号を押した。
「はい。事件ですか?事故ですか?」

ユキは「事件です。会社の人間が勝手に家に押しかけてきました。」と声を震わせた。
「わかりました。すぐ近くの警察官に通報いたします。玄関は、絶対に開けないでください!」
と言ってくれた。警官に住所と部屋の番号を伝えて、電話を切った。
ユキは、寝室のクローゼットの中に身を潜めた。

激しい玄関をたたく音が響き、その後、玄関を壊す音が聞こえ、ついに来てしまった。
早く警官来て!と願いながら、体を震わせた。

「どこかな~?ユキちゃん、怒らないから出ておいで」

五十嵐は、ユキを探してる。浴室、トイレ、キッチン、リビング、ベランダと捜し、ついには
寝室まできてしまった。

「ここ?ユキ、どこなの?かくれんぼは、終わりだ。」

怒りを含ませた声でユキは、ますます恐怖でいっぱいだった。
クローゼットに手を伸ばそうとしてくる気配を感じ、もう、ダメだと思った、その時だった。

「いてぇ!なにすんだよ!」
「ストーカー規制法と住居侵入罪、器物破損罪で現行犯逮捕だ。」

五十嵐の声と中島俊哉の声が聞こえた。
他にも複数の警察官がいる。

クローゼットが開き、20代後半くらいの女性警官が「もう大丈夫ですよ。」と優しく声をかけてくれた。
ユキは、安心感で涙を流した。「ありがとうございます・・・」

「ユキ!大丈夫だったか?無事でよかった!」

俊哉は、五十嵐に手錠をかけて、ほかの警官に身柄を渡して、こっちにきてくれた。
「通報があったとき、マジでびびった。早く助けに行かないとって急いできた。」
「俊哉・・・怖かった。怖かったよぉぉぉ・・・」
「よく頑張った。もう大丈夫だからな。後日、事情聴取受けることになるけど、大丈夫か?」
「うん。」

俊哉の腕の中で子供のように泣いたユキは、後日、警察署で事情聴取受けることになった。