降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。

「これからも誠に傘……貸してやってよ」

「……『傘を買え』じゃないんですね」

「誠は梓ちゃんの傘じゃないとダメなんだよ」


・・・・余計なことを言うなっつってんだろ。


「そうなんですか?」


キョトンとした顔をして俺を見上げてくる梓。


「……どうだろうな」


そんな綺麗な瞳で俺を見つめてくんな。


「ちゃんと傘買ってくださいね?いつも私が居るわけじゃないんで」


やれやれと言いたげな顔をして、どこか嬉しそうな表情にも見える。


──── 悪いが買うつもりはない。あるからな、普通に。


梓との接点が欲しくて、繋がりが欲しくて、血迷った俺は、“降りしきる雨の中、傘をささない男”という、死ぬほど謎なキャラを演じることにした。

『もぉーー』と言いながらも俺のスーツを拭く梓が、どうにも俺の心をくすぐって、どうしようもなく愛おしくて、“俺のモンになっちまえばいいのに”……そう思わずにはいられなかった。

・・・・あんなにも濡れるのが嫌で、クソほど嫌いだった雨が、今じゃ『降ってくれ』とか願ってんだもんな。頻りに天気予報確認したりして……きしょ。


「これじゃどっちが“子供”かイマイチ分かんないね~」

「桐生さんじゃないですかー?ずぶ濡れになっても、意地でも傘買わないですしーー」