降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。

喜怒哀楽を容赦なく俺にぶつけてくる梓に惹かれた部分はある……な。


「他の女とは違う」

「ははっ。確かにそうかもね」


俺の周りには、俺の地位に目が眩んでる女が多い。大半がロクな奴じゃねぇ。


「梓は違う」

「はいはい。そうだね、分かったよ」
 

──── 違う。梓だけは違う……。上手く説明はできないが……格段にナニかが違う。


この俺が、喉から手が出るほど欲しくてたまらない女だ。

そりゃ違うのは当たり前だろ。


「おーーい。桐生さーん、親友さーん」


遅れてロビーへ行くと、不貞腐れた顔をしながら傘を3本持っている梓が居た。


「あらら。雨降ってきちゃったかぁ」

「フロントで傘借りてきましたよー」

「気が利くね~、梓ちゃん」

「いえ。だって桐生さん、こうでもしないと絶っ対に傘ささないんですもん」

「え?」


おいおい。余計なこと言うなよ。


「おい、梓っ……」

「桐生さんいっつも傘ささないんですよー?だから、毎回傘貸してるんです。まあ、別にいいんですけど、風邪引くんじゃないかって心配で。桐生さんが傘ささないのって昔からですか?」

「いや?誠は雨に濡れるのが大の嫌いっ……」

「ああーーもういいだろ。そんなどうでもいい話。さっさと行くぞ」