降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。

『お前が欲しくてたまらない』……そんなこと、言えるわけねぇだろ。


「……タコ、忘れんなよ」

「……はい?」

「くくくっ……はははっ!!!!」


俺の隣で爆笑する雄大に殺意が芽生えたのは言うまでもない。


「た、確かにタコは重要ですけど……あまりにも真剣な顔してたから……正直、拍子抜けしました。ていうか、はぁぁ……焦ったぁぁ!!」


胸を撫で下ろすように笑って、『もう桐生さんって本当に掴めないーー』なんて言いながら、俺の隣に自然と並ぶ梓。


「桐生さん。タコ……忘れないように」


ニヒッと俺を小馬鹿にするような笑みを向けてきた梓。

それがどうしようもなく愛おしく思えた。

そして俺の手は、無意識に梓の頭を撫でている。


「あ、あのっ!桐生さんって人の頭を撫でるのが癖なんですか?」


いや、そんな癖ねーし。


「ははっ。誠がそんなことをするのは君だけだよ~」

「え?」

「溺愛だね」


なんてボヤいた雄大の後頭部を容赦なく殴った。


「……あの、私……そんなにも可愛いですか……?」

「あ?い、いや……」


何故かムスッとして俺を見上げている梓に、柄にもなく焦ってテンパる俺も相当キショイわ。


「妹みたいで」