降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。

腕を組んで、何を考えているのか分からない横顔。その横顔すら整っていて、呼吸を忘れそうになる。


・・・・どうしよう。逃げる?


私の気配を感じ取ったのか、チラッとこっちを見ると、髪をかき上げながら無表情で私をガン見して、数歩近付いてきた。


・・・・私、なにかしましたか?


逃げたいけど逃げれない。

いや、正しくは“逃げても無駄”。

だって、家が特定されてるんだよ?逃げてどうするの?意味ないじゃん。

だったら、3択の内の“2”……“戦う”を選択するしかない!!

私は意を決して、しかめっ面をしながら立ち向かった。


「あの、なんなんですか?」


ぶっきらぼうさんを見上げながら睨み付けると、真顔でフンッと鼻で笑われた。


「傘」


差し出された傘は、さっき私がぶっきらぼうさんに押し付けた傘。(私の傘)


「あ、どうも……ありがとう……ございます」


差し出された傘を受け取ると、大きな手が伸びてきて、ポンッと頭の上に置かれた。


「さっさと風呂入れ。風邪引くぞ」


そう言うと、何をするわけでもなく私の元から去っていく。


・・・・え……?ただ傘を返しに来てくれただけ?