降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。

「何に怒ってんだ」


声をかけられたからチラッと横を見ると、壁にもたれて腕を組み、真顔で私をガン見している桐生さん。


「……別に、怒ってません」

「怒ってるだろ」

「怒ってません」


私は桐生さんから顔を逸らして、ただ前を見つめた。


「梓」


──── 桐生さんに『梓』って呼ばれると、胸がキュンとして痛い。


「……私、子供じゃない」

「あ?」

「桐生さんからしたら、子供っぽく見えちゃうのかもしれないですけど、そんな子供扱いされる年齢じゃないんで。私」


なんでこんな可愛げのない言い方しちゃうんだろ……馬鹿だな、私。

そもそも、何をこんなにムキになってるんだろう。


「────── ろ」

「え?」


ボソボソと聞こえた桐生さんの声の方へ振り向くと、桐生さんが迫って来てて、後ろへ下がった私の背中は壁にコツンッと当たった。

壁にトンッと手を当てて、私を見下ろしている桐生さんの瞳が色っぽくて、胸がドキドキして苦しい。

このドキドキやトキメキは、“桐生さん”だからなのか、“男の人”だからなのか……。


──── お母さん……やっぱある程度の“恋愛”は必要だったと思います。