降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。

それに、桐生さんは────“ヤクザ”。

しかも、結構お偉いさんっぽいし……軽い気持ちなんかで好きになっては絶対にイケナイ人。


───── 落ち着いて。


今までずっと上手くやってきたじゃん。好きになるのも、なられるのも困るって、全て回避してきたじゃん。


「大丈夫か」


──── 大丈夫だって、自分に言い聞かせる。気のせい……こんなのは気のせいだって……そう言い聞かせて、無かったことにする。


「……ははっ。すみません!!ちょっとボーッとしちゃってて。手、痛くなかったですか?」

「別に」

「そうですか。じゃ……私はこれで」

「はいはい、ちょっと待ちなよ。梓ちゃん」


満面の笑みで私を引き止めた親友さん。

ぶっちゃけ勘弁してほしい。


「……なんですか?」

「3人でタコパしようか」

「「……は?」」


私と桐生さんが声を揃えたのは言うまでもない。だって、3人でタコパって……急すぎない!?


「誠ん家でね~」

「あ?」

「別にいいだろ?それとも梓ちゃん家に入ってもいい?」

「良いわけねぇだろ。テメェは死んでも入んじゃねえ」

「ははっ。引くほど器の小さい男だね~、誠は」