降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。

ドクンッ……ドクンッ……ドクンッ……と、自分の心臓の音しか聞こえなくなって、『どうしよう』という焦りより、『これがきっと“恋”なんだ』という、ワクワクとドキドキの方が上回っている。


「どうした」

「……へ?」

「顔、赤いぞ」

「え、あ、いっ、いえ!!」


桐生さんの大きな手が伸びてきて、私の額に触れようとした時、美冬が脳裏をよぎった。私の大切な存在……何よりも。


── パチンッ。


「…………あ、あの……ごめんな……さい」

「いや、悪い」


私は、いつも優しく頭をポンポンと撫でてくれる桐生さんの大きな手を……振り払ってしまった。


──── ダメ……禁断を破ることはできない。


美冬と離ればなれになるなんて、そんなの私にはできない。そんな覚悟……できるわけがないじゃん。

それに相手は桐生さんだよ?

私なんか相手にされないって、どう考えても。

女の人に困ってなさそうだし、何ならたくさん居そうだし……。

年の差だって結構ありそうだし……多分30歳前後でしょ?桐生さん。


・・・・なんて、こんなことごちゃごちゃ言ってるけど、ハッキリ言って私とは“釣り合わない”……この言葉に尽きる。