降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。

《帰ってきたよ~》


すると、すぐ既読になった。

お母さんって本当に仕事してるのかな?って疑いたくなるレベルで既読なるのが早い。


《おかえりなさい。今日はどうだった?》


・・・・どうもこうも、《アッチ系っぽい人に絡まれたんだよね~!》……なんて、口が裂けても言えないわ。


《美冬(みふゆ)と久々カラオケに行ってきた。美冬の音痴は健在だったよ。笑》


美冬がノリノリで熱唱している動画を送った。

美冬は私の親友で、小学校も中学校も高校も一緒。美冬と離れたくなくて日本に残ったと言っても、過言ではないってほどの存在。

私が日本に残った理由は、お母さんの邪魔になりたくなかったのと、美冬が日本に居るから……ただそれだけの理由。


《相変わらずだねぇ、美冬。後で美冬にメッセージ送ろ~っと!笑》

《煽るのも程々に。怒るよ~?美冬。ちなみに私は怒られた。笑》


そんなやり取りをしていたら、自然と笑みが溢れて、今日あったことなんて忘れちゃいそう。


「今日のことは忘れて、何もなかった……ことに……」


顔を上げて前を向くと、私ん家の玄関ドアの前に誰かが立っている。


────── なんで……どうしてあの人がここに居るの……?