降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。

──── 一瞬、ほんの一瞬。桐生さんの瞳が、切なげに揺らいで見えた。


「……あ、あのっ!!私、桐生さんは怖くないっていうか、怖いけど、怖くない……みたいな感じで……。だから、全然平気だし……桐生さんを“危ない人だ”なんて思いながら接してない!!……です」


桐生さんに迫りながら大きな声を出して、私は一体なにがしたいんだろう。

なにをこんなにも必死になっているのだろう。

ほら、桐生さんも困ってるじゃん……いや、いつも通りの真顔だけれども。


「……」


・・・・ねえ、何か言ってよぉぉ。


「あ、あの……桐生さ……ん……」


何も言ってくれないのが不安になって見上げると、分かりづらい……分かりづらいんだけど、少し微笑んで、心なしか機嫌の良さそうな桐生さんが、私を見下ろしていた。


──── 桐生さんの微笑みに胸が高鳴るのと同時に、私の中で桐生さんという存在が、ただのお隣さんから“特別”へと変わる……そんなような気が……。


この“特別”がなんなのかは分からない。

友達……?お兄ちゃん的な……?


・・・・そして、私の頭の中には“禁断”の二文字が浮かんできた。