降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。

「ああ、ごめんごめん。何か勘違いしちゃってるかな?……って、やれやれ。もう来ちゃったか」

「……え?」

「何してんだ」


私の真後ろ……というか、上?から声が聞こえて、バッと顔を上に向けると、桐生さんの胸元にコツンッと頭が当たってしまった。


「あっ、すみません」


離れようとした瞬間、後ろから私のお腹に桐生さんのガッシリした腕が回ってきて、ギュッとロックされて動けなくなる。


──── へ?……え、いや……あの……なんですか?この状況は。


「くくくっ。そんな警戒しなくても、取って食ったりはしないよ?なんて言ったって、誠の“特別”……だからね」


──── 私が桐生さんの……“特別”?


「さっさと失せろ」

「やれやれ。それが親友に言うセリフかね」

「俺の許可無く、勝手に接触するような奴が親友かよ」


・・・・一触即発!?……とか思ったけど、そんな雰囲気でもない。


桐生さんは元々、表情で感情を掴めないタイプの人だから、何となく声のトーンとかで察するしかないんだけど、この声のトーンは怒っていない……と思う。


──── ていうか、あの……離してくれませんか。