降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。

謝らなきゃいけないのは、私の方だったのに──。


「バイト代入ったから奢るわ~。タピオカ増し増しのやつ~」


謝らなきゃ……今更だけど、遅すぎるけど、それでも……“謝らなきゃ良かった”なんて、後悔することは絶対に無い。

私の歩みは自然と止まって、それに気付いた美冬も止まった。


「もぉ、なにー?タピオカだけじゃなく、たこ焼きも奢れって~?まぁ、別にいいよ~。結構バイト代入ったし」

「……あのさ、美冬。あの時……美冬が怪我をした時のことっ……」

「やめてくんない?そういうの」

「え?」


美冬の表情が真剣そのもので、思わず息を呑んだ。


「梓の為じゃない。あたしは自分の為に全てを辞めた。あの日から何となく気になってたけどさ、無駄に責任感じんのとか、普通に迷惑だし鬱陶しい」

「…………ごめん」

「あーー、ごめん。なんか違うわ」


ばつが悪そうな顔をして、髪をワシャワシャし始めた美冬。


「謝るとかじゃなくて、褒めるとこじゃね?」

「……え?」

「さっさと褒めてくんない?ヘビスモ舐めんな、マジで」

「……え、あっ、うん!!あの煙まみれだった美冬が、何より煙をスパッと辞められたことに驚いたよ!!凄い凄い!!本当にやればデキる女だよね、美冬って!!」