降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。

『全部やめて』と泣き叫んで、美冬に縋ったあの時……美冬はどんな気持ちで私を見て、どんな思いで私に謝ったのかな……。



──── あの日、美冬は喧嘩をしたわけではなかったと、風の噂で聞いた。



絡まれていた女の人を助けて、美冬は一切手を出さなかったって……。

正直、美冬にしては珍しいと思った。

自ら手を出すことは無いけど、やられたらやり返すタイプだったから。

そして、私はあることを思い出した。

この事件が起こる数日前、私が美冬に言った言葉を──。


『煙草もお酒も喧嘩も、美冬の自由ではあるし、個性だとも思い始めたよ、私。でも、推奨はしないし、ぶっちゃけ辞めて欲しい。せっかく同じ高校に
合格したのに、ヤンチャがバレて美冬が退学とかになったらさ、私ツラいんだけど。そうなったら私も学校辞めちゃうかも~』

『はいはい、分かった分かった。ったく、面倒くさい女だね。マジで~』


──── なんて、笑い合いながら……。

・・・・きっと美冬は、私の為に──。

そんな美冬に私は、喧嘩をしたと決めつけて、酷いことを言ってしまったんじゃないかって、ずっと後悔している。

あの日、背中に負った大きな傷は癒えずに残ってて、その傷を見る度に、罪悪感に押し潰されそうになった。