降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。

それを見かねた受付さんが、なんとか融通を利かせてくれて美冬の病室へ。

病室のドアを開けて、真っ先に視界に入ってきたのは、ベッドに腰掛けている美冬だった。


「ちょ、なんで梓がボロボロなわけ~?ウケる~。てか、大騒ぎしてるって看護師さん困ってたわ。ヤバすぎでしょ、アンタ」

「……み、ふゆ……生き……て……る……」

「はぁ?なに言ってんの~。勝手に殺すなって」


・・・・ゆっくり美冬に歩み寄って、安堵からか全身の力が抜け、骨が無くなっちゃったみたいに、フニャッと美冬の足元へ座り込んだ。


「……っ、美冬……っ」

「ん?」


うつ向いて、必死に声を絞り出した。


「……っ、いい加減にして。いい加減にしてよ……っ。お願い……っ、もう……やめて……っ。喧嘩なんて……もう、しないで……っ。お願いだから……っ、もう、全部……やめて……。もう……全部やめてよ!!!!」

「…………ごめんね……梓」



──── 美冬はそれ以降、何回言っても辞めてくれなかった煙草もお酒も辞めて、喧嘩もしなくなった。



私はあの時、『もう二度、こんな苦しくて悲しい思いはしたくない』……そう思った。

それは美冬を思って……というより、“自分が美冬を失って、辛い思いをするのが嫌”……という感情の方が先走って、私は美冬を……縛り付けてしまった。